1・最後の『カノジョ』

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ただまぁ北宮くんと彼を好きな女の子たちは良くても、三ヶ月ごとに恋人を変える彼に嫌悪感を抱いたり、(ねた)んだりする人も多い。 そういう人たちは皮肉をこめ、彼をこう呼ぶ。 アイドルオタク用語の、『誰でも大好き(Daredemo Daisuki)』の頭文字を取った言葉である、『DD』という名詞に敬称をつけ、『DDくん』と。 「北宮くんのカノジョとして過ごす三ヶ月って、嬉しくて楽しくて、きっとあっという間なんだろうねぇ」 「恋人になりたい子がとぎれないということは、そうなんだろうね。まぁ私と奈々夏には関係ないし、さっさと帰ろっか」 面倒なことに巻き込まれないうちに、という意味をこめ、私は奈々夏に目配せする。 三ヶ月に一度変わる恋人は、公平を期すために抽選アプリを使って決めるらしい。 けれど過去に数度、選ばれた子と選ばれなかった子たちの間で、ケンカが起きているらしいので。 「うん。教科書しまっちゃうから、ちょっと待ってて」 自分で言うのも何だが、私はことなかれ主義の八方美人。 毎日平凡平和に、心に波風をたてずに暮らしていきたい。 少しの苦労で、大きな面倒がさけられるならと、つい頼まれごとを引き受けてしまう。 私が何故こんなにも安定思考なのかというと、単純に心を疲れさせたくないから。 だから誰ともケンカなんてしたくないし、誰かと誰かのトラブルにつきあわされるのも、お断りだ。 特に恋愛系の問題はやっかいだということを、巻き込まれたわけではないが、身をもって知っているし。 「そういえば、先週行方不明になった沙織ちゃんのノート、見つかった?」 「ううん。心当たりの場所、全部すみからすみまで探してみたけど、全然見つからないんだよね……」 荷物を詰め終え、カバンのふたをパチンと閉めた親友からの質問に私はうなだれ、先月カットしたボブヘアを揺らし、左右に首をふった。 私にはイラストを描く趣味があり、なくしたノートというのは、イラストノートとして使っていた物で。 奈々夏含む、数人の仲良し友達にしかそのノートは見せていないし、趣味自体大っぴらにしていない。
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