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十五歳という年齢にしては、それなりに描けている自信はある。
しかしプロのイラストレーターの絵と比べたなら、当前天と地ほどの差がある。
だから見知らぬ誰かにノートを拾われて見られ、「下手くそ!」と笑われていたら……と想像すると、顔がひきつって胃がキリキリする。
「あのノート、どこにいっちゃったんだろ?」
いっそすでに焼却炉の中で灰になっていてくれ、と私がため息をついた時、「えっ?!」と叫んだ女の子の声が鼓膜をつらぬいた。
発声者へと反射的に目を向ければ、それは北宮くんを取り囲む女の子の一人っぽく。
――この時一瞬、北宮くんと目があったような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
「マジで?! 何で何で?!」
「抽選アプリ使わないてどういうこと?! ならどうやって決めるわけ?!」
どうも今回の恋人決めはいつも通りじゃないようで、不安と不満にわずかな期待を混ぜた面持ちの女の子たちが、大声で次々に北宮くんへ言い立てる。
「最後くらい自分の意思で、カノジョにする相手決めようかなぁって」
私も奈々夏も、教室に残っていたクラスメイトたち全員が野次馬根性を発揮し、無言で彼らの会話に聞き耳をたてる。
「最後ってどういうこと?!」
「何それ?! 本命がいるの?!」
「好きな人がいるなんて聞いてないし、ショックなんですけどぉ!」
「で、誰をカノジョにするつもり?」
「ちゃんと全部説明するから、みんな落ち着いて」
北宮くんの恋人になりたい女の子たちと、私含むクラスメイトの視線を一身にあびながら、彼は質疑応答をはじめた。
「オレ、転校することになったんだよね。二学期いっぱいで」
「ええっ?! 二学期いっぱいということは、今年の十二月には転校していっちゃうってこと?」
「どこへ引っ越すの? 遠い?」
「隣の小唄市。だからそんな遠くではないけど、新しい家から今の学校に通うのはさすがに厳しいからさ」
「だから最後に本命とつきあいたい、てことかぁ。――その本命て誰? 早く教えてよ!」
「誤解がないように最初に言っておくけど、これから指名させてもらうその人のこと、オレは別に好きでも嫌いでもないから」
「ハ? どういうこと?」
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