83人が本棚に入れています
本棚に追加
「最後の三ヶ月くらい、自由に過ごしたいなと思って」
「意味分かんないんだけど?」
「君らってば恋人になったら、『カノジョだから』て面倒なこと、すごい要求してくるじゃん。
例えば『寝落ちするまで通話したい』とか、『毎朝家まで迎えに来て』とか、『私がカノジョの間は他の女の子としゃべらないで』とか。
こんな風に、オレの時間を自分にめちゃくちゃ使わせようとしたり、わがまま言ってくるの、ずっと迷惑に思ってた」
ニコニコしながら説明する北宮くんとは対照的に、彼の手厳しい告白に教室内はシンと静まりかえる。
「……迷惑だなんて、ひどい。私たちはただ、北宮くんのことが好きなだけなのに……」
はりつめた空気の中、北宮くんの正面にいた女の子がうつ向き、ふるえる小さな声で言う。
「ごめん。でもこれがオレの正直な気持ち。
もう『DDくん』は卒業する。
というかそもそもオレ、『誰でも大好き』じゃねーし」
「ワタシは北宮くんが嫌がること、しないよ!」
「最後のカノジョにはオレ、オンラインでもオフラインでも、恋人らしいことは少しだってしないつもりだけど、それでもいい?」
「それは……」
ツインテールの女の子が口ごもってしまう。
他人事ながら、笑顔で恋人候補だった子たちを容赦なく切り捨てていく北宮くんを、私は恐ろしく感じた。
「つまりこれから北宮くんが指名する相手は、『形だけの恋人』ということ?」
「そうなるな」
事前に指名相手には話をつけてあるのだろうけど、それって誰? と、私は残っているクラスメイトたちをさりげなく見渡す。
「誰が『形だけの恋人』なの?」
「千代岡沙織さん」
――え??
教室中の目が一斉に私へと向けられ、その視線の圧と驚きにより、私は無意識に五秒くらい呼吸を止めた。
最初のコメントを投稿しよう!