83人が本棚に入れています
本棚に追加
14・恋ってやっぱりダメ!
高校最寄り駅前近くで、北宮くんはようやく早歩きをやめて立ち止まり、私の手首を放してくれた。
「ごめんな、千代岡さん」
「何が?」
「メイ先輩が、千代岡さんのことハブろうとするのに気づいてたのに、上手く対処できなくて」
「あ……」
そりゃあんなにもあからさまじゃ、北宮くんだって気がつくよね。
『形だけの恋人』に私を指名した時、このことでイジメをしたら許さない! というようなことを宣言した手前、知らないふりをするわけにもいかないし。
「『これから別の用事がある』というの、メイ先輩の嘘だろ?」
「うんまぁ、そう」
「オレの『親から帰ってこいという連絡が来た』も、『母親が怒ってる』てのも、嘘」
「あぁやっぱり……」
聞かされた時、北宮くんの帰らなきゃならない理由を一瞬信じた。
だけど北宮くんが私の手首をつかみ、長谷部先輩をふり切ろうとした時点で、これは嘘だと気がついた。
「メイ先輩が『今フリーでさびしいんだよね』と言った時点で、オレをカレシ役にしたいんだなぁとは分かったんだけど……千代岡さんのこと邪険にしすぎだろ。オレ、ああいうの嫌い。
だから、千代岡さんが食べたいと言ってたクレープ食ったら帰ろう、とクレープ屋に着く前から決めてたんだ」
北宮くんは腕を組んでうつ向き気味にため息をつき、不機嫌そうに斜め上を見て、駅のロータリーへ次々に入っていく車を十秒くらいながめた後、最後に私を見て言った。
「オレのせいで嫌な思いさせて、ごめんな」
こんな風なことが起こると分かっていたから、形だけでもあなたの恋人になんてなりたくなかったんだよ。
――などという言葉は私の口からは出ず、私はあいまいに「うん」とだけ言った。
不快だったのは事実だけれど、それに対しての私の怒りの矛先は根本的原因の彼ではなく、邪魔者扱いしてきた当人の長谷部先輩に向いている。
「昔はあんなガツガツした人じゃなかったんだけどなぁ? 高校行って変わっちゃったのかなぁ?」
雲ってきた空を見上げてボヤく北宮くんに対し、それは違う、と私は思った。
最初のコメントを投稿しよう!