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2・全力でお断りです!
「ウッソォ?! 千代岡さんて、本当に?!」
「えぇーやだぁ! 信じらんない!」
「意味分かんないだけど?! 何であの子?!」
スクールカーストは精々下の上程度なあの女が?! 納得できない! と、悲鳴に似た批判の声が女の子たちから吹き上がる。
「千代岡さんは優しくてお願いを断らない、『イイ人』だって聞いたから」
後にも先にもこの時ほど、自分の八方美人な性格をうらんだことはない。
「恋人らしいこと何もしてくれなくていいから、あの子じゃなくわたしを北宮くんのカノジョにしてよっ!」
「本当に謝ることしかできないんだけど、無理。オレのことを一ミリだって好きじゃない相手じゃないと、今は恋人にしたくない」
「何それ……矛盾してるし、わたし本気なのに……最低ッ!」
「うん。オレみたいな最低野郎なんてとっとと嫌いになって、別の奴を恋人にしな。
――というわけで、千代岡さん。三ヶ月間だけオレのカノジョになって欲しい」
女の子たちの輪を抜け、北宮くんがこちらへと歩いてくる。
「こ、困るよ……」
北宮くんは七月の大会を最後に部は引退したものの、ツーブロックの髪はプールの塩素により脱色されたままで、茶色い。
長身で体格もよく、健康的に日焼けした肌。
悪い人ではないと知っているが、私とは真逆の存在の彼に、本日二度目の軽い恐怖を感じた。
「私がカノジョだなんて、そんなの困る……」
「分かるよ、困っちゃうよね。千代岡さんにとって迷惑だよね。
でもお願い! 最後にオレに自由な三ヶ月を下さい!」
北宮くんはパンッと手を打ちあわせ、私を拝む。
「む、無理ですっ……! 私以外にも北宮くんのことを好きじゃない子はいると思うので、別の人に頼んで下さいっ」
いくら頼まれようが、北宮くんにうらまれようが、このお願いは絶対に断らなければいけない。
そうしなければ彼にうらまれる以上の面倒が、絶対に発生するから!
「じゃ、その人紹介して?」
私が野次馬クラスメイトたちへ視線を向けると、全員に目をそらされた。
そりゃそうだ。誰だってこんな厄介ごとに巻き込まれたくはない。
「誰ともつきあわない、という選択肢はないの?」
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