15・恋とは落ちるもの

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15・恋とは落ちるもの

高校最寄り駅について電車に乗った後も、私と北宮くんの間に会話は少なく。 居心地が悪い空気を保ったまま、地元駅まで戻ってきた。 駅から家までは徒歩でも帰れるが、その手段をとると、たぶんこのままもうしばらく彼の隣を歩くことになる。 休日に二人で歩いているところなんて目撃されたら、月曜日の学校が怖すぎる。 そして私は彼との間にある、この微妙な空気ともさっさとおさらばしたい。 だから改札を出て少ししたところで、「私、バスで帰るね」と言おうとした時だった。 「沙織ちゃん?」 少し離れた場所から、知った声に名前を呼ばれた。 その声がした方向へ反射的に向けば――私の初恋相手の従兄弟がいた。 「正二郎お兄ちゃん……?!」 引っ越しは早くても年末だと聞いているんだけど、また来てたの?! 会いたくないから来ないでよ! というショックではなく、今隣に北宮くんがいるんだけど?! という気持ちが、私の声をかすれさせた。 「やっぱり沙織ちゃんだ。久しぶりだね」 約一ヶ月ぶりに会う従兄弟が悪意ゼロの笑顔で、近寄ってくる。 「お兄ちゃん? 千代岡さんて、お兄さんがいたんだ?」 たぶん、「えらい歳離れてるな?」とか思っているだろう北宮くんが、私と従兄弟を交互に見ながら言う。 「ち、違うの! 正二郎お兄ちゃんは、お母さんのお姉さんの子供なの!」 たいした誤解じゃないのに、訂正する私の声は何故か必死だし、どもった。 「ふぅん、『従兄弟のお兄ちゃん』てことか」 北宮くんの言葉に、私は何度もすばやくうなずいた。 「うん、僕は沙織ちゃんの従兄弟でね。十二歳離れてるんだけど、おじさんすぎてビックリした?」 「いいえ、オレにもかなり年上の従兄弟がいるんで」 「そっかー。君は沙織ちゃんの中学のお友達かい? それとも恋人だったり?」 冗談めかして従兄弟が聞けば、北宮くんは本当か嘘か判断しかねる調子で答えた。 「カレシですよ」 従兄弟が驚いて「ほー!」と叫ぶのと、私が「違うし!」と叫んだのは同時だった。 「違う、違うのお兄ちゃん! 私っ……!」 「事実だろ?」
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