15・恋とは落ちるもの

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「北宮くん!」 何で急に意地悪するの?! だまってて! と、北宮くんをにらめば、彼は素知らぬ顔で全然関係ない方向へ顔をそらした。 「大丈夫だよ、沙織ちゃん。沙織ちゃんのお母さんとお父さんには、秘密にしておくから」 「だから違うんだって!」 「沙織ちゃんも大人になったね」 取りあってくれない従兄弟は私の頭をひとなですると、「あ、もう電車が来るから行かなきゃ。じゃぁね、またね」と手をふり、改札へと走って行ってしまった。 「千代岡さんてば顔真っ赤だけど、大丈夫?」 北宮くんが呆然(ぼうぜん)と立ちつくす私の前へ回り込み、他人事みたいに言う。 「――き、北宮くんのせいでしょ! カレシだなんて言って! 完全に誤解された!」 「『形だけ』だろうが、本当のことだもん」 「だもん、じゃない! ……正二郎お兄ちゃんは秘密をバラして回るような人じゃないけど、お母さんとかに話が伝わっちゃったらどうしよう……」 両親には、現在私が北宮くんの『形だけの恋人』をしていることを、伝えていない。 仮に本当の恋人がいたとしても親バレしたくないのに、『形だけの恋人』だなんてどう説明したらいいのか、まったく分からない。 だから親には全部秘密のまま、すべてを終わらせたかったんだけど……北宮くんは私に迷惑をかけている自覚があるぽいのに、どうして「カレシですよ」なんて言ったワケ?! 「さっきのあの男の人が、例の従兄弟さんだったりすんの?」 私がリアルに頭を抱えていると、北宮くんが聞いてきた。 「前に話してくれたじゃん。先月世界昆虫展に行った帰りに、ハンバーガー食いながらさ」 キーワードを散りばめられた言葉に、そういえば……と思い出す。 もう一ヶ月くらい前の話だし、毎日創作活動にいそしんでいてすっかり忘れていたけれど、その時に確かに話した。 恥ずかしかったから簡単にだが、私の従兄弟への失恋話の愚痴を。 忘れてくれていいというか、むしろ積極的に忘れて欲しい話なのだけど――北宮くんは覚えていたのか。 「……すっごく下らなくてつまらない話なのに、何でまだ覚えてるのよ」 「オレ、結構記憶力いいから」 「話す相手、間違えた」
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