15・恋とは落ちるもの

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恥ずかしくて私がプイとそっぽを向けば、「ごめん」とようやく謝罪された。 「従兄弟さんのこと、千代岡さんはまだ好きかもなのに、カレシだなんて名乗ってごめん。 でもあの人、千代岡さんの気持ちを知らずに、『恋人?』なんて聞いてくるからさ。 無神経さ感じてムカついて、つい」 そんなことを思っての発言だったとは。 意外すぎて考えもしなかった、と北宮くんへ向き直れば、彼はすねたような表情で地面を見ていた。 私の気持ちを考えてのカレシ宣言だなんて、教えてくれなきゃ分からないから、困るよ。 でも彼なりの気遣いを知り、私の中から怒りが消え、かわりにほわっと胸の中が暖かくなった。 「そうだったんだ。 ……今は絵描くのに夢中だし、時間薬なのかな? さっき正二郎お兄ちゃんと会った時、もう前ほど心がしんどくなかった」 私はしゃべりながら気がつく。 親に従兄弟の話をされることすら苦痛だったはずなのに、さっき従兄弟と直接顔をあわせて会話までしまった、今の私の心は少しも痛みを感じていない。 どうして? 「吹っ切れてきてんじゃん。よかったな」 北宮くんが優しく微笑み――私の心の中心にあった何かがキラリと光り、大きく跳ねた。 そしてその『何か』は一瞬のうちに急成長し、空気を入れすぎた風船みたいに破裂する。 『何か』に詰まっていた中身は、破裂した勢いで飛び散り、心全体にふりそそぐ。 それはとろけるような甘さで、ヤケドしそうな熱さを持ち、どこまでも透き通ったピンク色をしており。 ……あ、あ、あ、これは、これは―――― 「よかったって……北宮くんには関係なくない?!」 「関係あるし。クラスメイトで、創作仲間で、自作小説のキャラデしてもらってる、千代岡さんのカレシだからね!」 北宮くんは今度はいたずらっぽい笑顔で、私の顔をのぞきこんできた。 やめて、お願い、そんなことしないで。 私、とっても困ってしまいます。 頭がぽーっとして、ふわふわして。 普通じゃいられなくなってしまうの。 だから―― 「笑い事じゃないし! もう知らない! 私、バスで帰るから!」
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