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恥ずかしくて私がプイとそっぽを向けば、「ごめん」とようやく謝罪された。
「従兄弟さんのこと、千代岡さんはまだ好きかもなのに、カレシだなんて名乗ってごめん。
でもあの人、千代岡さんの気持ちを知らずに、『恋人?』なんて聞いてくるからさ。
無神経さ感じてムカついて、つい」
そんなことを思っての発言だったとは。
意外すぎて考えもしなかった、と北宮くんへ向き直れば、彼はすねたような表情で地面を見ていた。
私の気持ちを考えてのカレシ宣言だなんて、教えてくれなきゃ分からないから、困るよ。
でも彼なりの気遣いを知り、私の中から怒りが消え、かわりにほわっと胸の中が暖かくなった。
「そうだったんだ。
……今は絵描くのに夢中だし、時間薬なのかな?
さっき正二郎お兄ちゃんと会った時、もう前ほど心がしんどくなかった」
私はしゃべりながら気がつく。
親に従兄弟の話をされることすら苦痛だったはずなのに、さっき従兄弟と直接顔をあわせて会話までしまった、今の私の心は少しも痛みを感じていない。
どうして?
「吹っ切れてきてんじゃん。よかったな」
北宮くんが優しく微笑み――私の心の中心にあった何かがキラリと光り、大きく跳ねた。
そしてその『何か』は一瞬のうちに急成長し、空気を入れすぎた風船みたいに破裂する。
『何か』に詰まっていた中身は、破裂した勢いで飛び散り、心全体にふりそそぐ。
それはとろけるような甘さで、ヤケドしそうな熱さを持ち、どこまでも透き通ったピンク色をしており。
……あ、あ、あ、これは、これは――――
「よかったって……北宮くんには関係なくない?!」
「関係あるし。クラスメイトで、創作仲間で、自作小説のキャラデしてもらってる、千代岡さんのカレシだからね!」
北宮くんは今度はいたずらっぽい笑顔で、私の顔をのぞきこんできた。
やめて、お願い、そんなことしないで。
私、とっても困ってしまいます。
頭がぽーっとして、ふわふわして。
普通じゃいられなくなってしまうの。
だから――
「笑い事じゃないし! もう知らない! 私、バスで帰るから!」
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