15・恋とは落ちるもの

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「バイバイ!」と言い捨て、私は走って北宮くんから逃げ出した。 どうしよう、どうしよう、どうしよう! 大嫌いだ面倒だと思っていたアレが、心の中にあることに気がついてしまった。 私ってば北宮くんに恋をしてしまった! * バス停まで全速力で走り、ちょうど来ていたバスへ飛び乗る。 昼前の中途半端な時間の車内は、休日といえど適度に空席があり、助かったと思った。 酸欠理由のドキドキと恋理由のドキドキで、私の胸は壊れそうだったから。 真ん中より少し後ろの席に座り、胸に手をあてて呼吸を整える。 すぅはぁと何度も深呼吸しているとバスが発車し、しばらくすると心臓のドキドキはだいぶ落ち着いた。 でも心の方は全然ダメで。 北宮くん大好き! という高揚感、よりによって北宮くんを好きになってしまったという絶望。 あいいれないこの二つの気持ちがぶつかりあい、心の中では大風が吹き荒れ、大惨事になっている。 好きという感情は幸せなもののはずなのに、目の前が涙でぼやけた。 私、何でこうなんだろう。 またむくわれない恋をしてしまうなんて。 また好きになっちゃいけない相手を、好きになるなんて。 小説の公募のしめ切りさえなければ、北宮くんは誰とでもつきあう『DDくん』。 それって裏を返せば、特別に大好きな相手はいないということ。 北宮くんが私を『形だけの恋人』に選んだのは、私が彼を恋愛対象として見ないだろうと思ったから。 こちらも裏を返せば、彼は私を恋愛対象として見ることはない、と判断したから選んだとも言える。 だから私のこの気持ちは、彼には絶対バレちゃいけない。 今北宮くんが私に好意的なのは、リアルでは唯一の創作仲間だから。 よってもしバレたなら、創作仲間というポジションにすら、私はきっと立っていられなくなる。
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