16・早まる期日

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16・早まる期日

鏡月高校の文化祭から三日たった、十一月最初の日。 この日、三時間目の理科の授業を終えるまでは、私がままならない恋心に困っている以外は、平和なはずだった。 「あっ、そうだ! 言い忘れるところだった! 北宮の転校だけど、親御さんの都合で二学期いっぱいまでだったのが、今月の十八日に早まったから」 理科担当のクラスの担任が、チャイムが鳴り終わった直後、大声で言った。 「北宮と話しておきたいことや、やっておきたいことがあるなら、さっさとすませておけよー」 北宮くんの転校日が早まったという爆弾を投下した担任は、一気にざわつきがひどくなった教室を見渡し、ニヤニヤ笑う。 「じゃぁ北宮は、今日ふくめて後十八日しか学校に来られないてこと?!」 思ったことをすぐ口に出す、お調子者の男子が叫ぶ。 振り向きたいのを我慢している私の耳に、北宮くんへ話しかけるクラスメイトたちの声が飛び込んでくる。 「ウッソ、北宮ってばマジでか?!」 「一ヶ月以上早くなってんじゃん!」 「ねーねー、何で早くなったの?」 今北宮くんがどんな表情をしているのか確認したいが、私は決して振り向いてはいけない。 それはイジメやからかいを避けるためでもあるけれど、彼に悟られてしまいそうで怖かったから。 動揺(どうよう)している今、もしふり向いて目があったなら、彼に私の片思いを見抜かれてしまいそうに思えて。 「良かったな、千代岡」 いつの間にか私の机の脇に立っていた担任が、声をひそめて言ってきた。 『形だけの恋人』という厄介な役目を、予定より早く終えられそうで良かったな、という意味だとすぐに理解した。 「……はい」 愛想笑いを顔にはりつけ、私は心にもない返事をした。 本心では、「北宮くんの転校が早まるって、先生はいつから知ってたんですか?! ねぇどうなんですか?!」と、つかみかからんばかりの勢いで聞きだしたいのを我慢して。 北宮くんと学校で話すのは難しいから、彼にはDMで問いただしてやろうと思った。
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