17・美術準備室にて

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17・美術準備室にて

転校日の変更が判明した日から約一週間後の、北宮くんがこの中学を去る九日前。 やっぱり恋ってヤツはダメだ。私の心を振り回しすぎる……と、トイレ帰りの廊下を一人とぼとぼ歩いていた時だった。 「おーい、千代岡! 今日の放課後、美術準備室に置きっぱなしになってる自分らの絵を、松樹と一緒に取りにきなさい」 前方から歩いてきていた美術部顧問にこう言われたので、終礼が終わった後、私と奈々夏は美術準備室へ向かった。 吹奏楽部の練習を遠くに聞きながら、美術部準備室の扉を二回ノック。――返事はない。 顧問からは、「不在でも鍵は開けておくから、勝手に入って持って帰るように」とも言われていたので、私たちは引き戸を開けて中へ入った。 いつ入ってもここは、絵の具とテレピン油、ホコリと少しのカビ臭さが充満している。 「まだ早い気がするけど、後半年もしないうちにわたしたち卒業だから、少しずつ持って帰らないとね」 「そうだね。……奈々夏と同じ高校行けないの、残念すぎる」 「本当、わたしもだよ。高校生になっても、一緒に遊んでね」 「当たり前じゃん!」 棚の中に大量にしまわれている美術部員たちの絵の中から、自分たちが描いた絵を取り出して広い台の上へ置く。 私と奈々夏は台へ隣あって並び、雑談をしながら画用紙を丸め、輪ゴムでとめていく。 「ねぇ沙織ちゃん、話は変わるんだけど」 「うん、何?」 「北宮くんに告白しないの?」 藪から棒に奈々夏が、石膏像を描いた画用紙を丸めながら、何の前ふりもなしに聞いてきた。 「ハ?」 不意打ちすぎて頭の中が真っ白になり、私は目と口をバカみたいに開き、一文字だけ言葉を発した。 「沙織ちゃんが北宮くんのこと好きなの知ってるよ、わたし」 奈々夏は私の方を見ずに作業を続けながら、淡々とした声で言う。 「――や、やだなぁ、冗談やめてよ! 私が北宮くんなんかを好きとかありえないし! 北宮くんて、現在進行形で私に迷惑かけてる人だよ。 そりゃすごくイケメンかもだけど、それだけじゃカバーしきれない迷惑をかけてくる相手なんか、私が好きになるわけないじゃん!」
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