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「中一の夏までさかのぼるんだけど、『水泳部の大会があって忙しいから、大会終わるまで恋人は作らない』て、言ったんだよね。
これって断る理由としてちゃんと成立してると思うんだけど、女の子たちは認めてくれなくてさー。
『重大な機会損失だわ!』とか言って。
だから、形だけでも恋人がいないとダメなんだなぁと、理解したってワケ」
モテるのも大変だね、と同情はする。
同情はするが――ならばOKできるかと問われたなら、答えはノー。
依頼を受けたなら、北宮くんのことを好きな女の子たちから、向けられるはずのなかった敵意を向けられるのは、私なのだから。
「あ、そうそう! これ理由で千代岡さんをイジメるのはナシな!」
どう言えば断れる? と、脳みそをフル回転させる私に、北宮くんはニッと笑いかけると、振り返って女の子たちにこう言い放った。
「一方的にオレが彼女を選んだんだから、文句ある奴はオレに言えよな!
千代岡さんに対して、悪口とか嫌がらせとかしたら絶対に許さねぇし、先生にも即チクる。
学級会開いて、そいつのこと責めまくるから覚悟しとけ。
中三のこの時期にイジメとか、内申点傷つけるバカな行為する奴なんかいねーとは思うけど、一応念のため言っとくわ」
明るくからっとした調子で宣言した北宮くんだったが、目線でも声でもオーラでも、確実に威嚇していた。
「そういうことだから千代岡さん、転校するまでの三ヶ月間よろしく!」
つい先程までの攻撃的な雰囲気はどこへやら。
私のすぐ目の前まで歩いてきた彼は、整った顔に友好的なほほえみを浮かべ、右手を差し出してきた。
「そんなこと言われても……こ、困るよ……」
あぁなるほど、と理解する。
これじゃ北宮くんのカノジョになりたい子が、後から後からわいてくるのも仕方がない。
笑顔がすごく魅力的で、カッコイイ。
「えー? 頼むよー、お願いっ! 引き受けてくれたら、何かお礼するからさぁ」
「お礼なんていらないです……」
「うわ、千代岡さんてば本気でイイ人すぎない? 感動するー」
「そうじゃなくて、そうじゃなくてねっ」
「うん?」
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