83人が本棚に入れています
本棚に追加
「わたしは自分のこと、沙織ちゃんの一番の友達だと思ってる。だから分かるの」
画用紙を丸める手を止めた奈々夏は、身体ごと私へと向き、まっすぐに私の目を見て話す。
「北宮くんの転校が早まったことが分かって以降、沙織ちゃんてば微妙に元気がないし、たまに北宮くんのことをさびしそうな顔して見ているし」
「私、北宮くんのこと見てなんか……」
「無意識だった? 一日に最低一度は北宮くんのこと、見つめてるよ。
ひんぱんじゃないしさりげなくだから、わたし以外の人は気がついていないと思うけど」
「え、ぁ……」
自分よ、マジか。
片思いしているのがバレちゃいけないから、意識的に見ないようにしていたつもりだったんだけど……マジか。
私をあやつる恋心さん、怖すぎる。
「話を戻すけど、好きなら告白した方がいいと思う」
私を見つめる奈々夏の目は、絵を描いている時と同じくらい真剣で、真面目だった。
この瞳に嘘は通じない。
そう理解した私は一つため息をついた後、誤魔化すのをあきらめ、認めた。
「しないよ、告白なんて。
だって相手は誰のことも特別に好きじゃないから、誰とでもつきあえちゃう『DDくん』だよ。
言う前から玉砕が決まってる告白なんて、する意味ない」
「フラれると決まってはいないと思うけど」
「ううん、失恋するって決まってる。
……好きだと伝えなかったら、少なくとも今の関係のままでいられるでしょ?
だから告白するつもりはないの」
従兄弟の正二郎お兄ちゃんへの、告白しないでの失恋すら、あんなにも心に深い傷を受けた。
それなのに告白し、本人の口から「ごめんなさい」と聞かされた日には――想像しただけで、胸とのどの奥がキュッとつまるし、泣きたくなる。
「わたしの目に狂いがなければ、北宮くんも沙織ちゃんのこと好きだから、大丈夫だと思う」
「えぇッ?!」
奈々夏の思い違いもはなはだしい言葉に、つい大声を出してしまい、私はあわてて自分の口を両手でおおった。
私の叫び声を聞いた誰かが、準備室の引き戸を開けてこないことを確認後、私は手を下ろして声をひそめて反論する。
「まさか、そんなのあり得ないよ!
スクールカースト頂点の人が下層にいる私なんかを、特別に好きになるわけないじゃん!」
最初のコメントを投稿しよう!