83人が本棚に入れています
本棚に追加
まぁどんなに笑顔が素敵でも、絶対に私は彼を好きにはならないけど。
だって恋愛感情を持つと疲れるから。
特にむくわれないと分かっている恋なんて、しないに限る。
「ごめんなさいっ!」
先に大きなトラブルしか待ち受けていないだろうお願いは、八方美人を自認している私でもさすがに無理。
三十六計逃げるに如かず! と、私はカバンをひっつかんで北宮くんから逃げ出した。
*
「待って! 待って、沙織ちゃん!」
校門を出たところで追っ手確認のため、立ち止まって振り返れば、奈々夏だけが私を追いかけて走ってきていた。
北宮くんの姿がないということは、私を『形だけの恋人』にすることをあきらめてくれたのかな? と、期待する気持ちがわく。
「は、走るの速いよ、沙織ちゃん。……あ、違うね。わたしが遅いだけだね」
ようやく少し夏の気配が引きはじめたかな、という空気の中、並んで帰路についた奈々夏の呼吸はまだ整わない。
奈々夏は運動は苦手だけど、私より絵が上手くて、勉強もできる。
背は高くなくて、色白で華奢。
腰まである長い黒髪は左右に分け、三つ編みにしてある。
とてもシャイで大人しいから、多くの人は見落としているが、結構かわいい顔をしていると思う。
彼女がまとう雰囲気通り優しい性格で、制服のセーラー服がよく似合う、守ってあげたくなる女の子。
私が男だったら、好意を抱いていたと思う。
「沙織ちゃん、北宮くんのことどうするの?」
奈々夏はカバンから水筒を取り出し、一口お茶を飲んだ後聞いてきた。
「どうって……さすがに絶対断るよ。
あんな一方的に指名されて決められて。すごい迷惑……」
「だよね。――沙織ちゃんは北宮くんのこと、少しも好きじゃないんだ?」
「彼と私はただのクラスメイトだよ! 好きも嫌いもないし!
立つ鳥跡を残さずの真逆で、実はウザく思っていたからって、最後に自分を好きな子たちにあんなひどいこと言って……。
『DDくん』なとこ以外はいい人かと思ってたら、いいのは顔だけだったってオチだとは思わなかったよ!」
「本当、イケメンだよね。北宮くん」
最初のコメントを投稿しよう!