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中野竹子と優子
「ほら優子、つり橋だよ」
「ん、ん……」口をとがらせながら、ぷっくりと小さな手が不器用に動く。
「おねえさま、たんぼ」
「じゃあ優子、次はほら川だよ」ジーっと見つめる頭が左右に動き、手が伸びてくる。
「……あ、そこ、小指を離しちゃだめだよ」
「ふねぇ」
「ほらぁ、こんがらがっちゃった」
「おねえさま、おふねぇ」
「お船になってないってば」
「おかあさま、おねえさまがいじわるします」
歳が六つも違えば、わがままで傍若無人な妹に、姉の竹子は勝てない。けれど、そんな優子がかわいくてならなかった。
──なっと、なっと、なっとう
遠くから棒手振の声がする。江戸の町には、六尺の天秤棒に笊や籠や箱をぶら下げて物を売り歩く声が、ひがな一日絶えることがない。
「玉やさんはこないかねぇ、おねえさま」
玉屋~玉屋~と売り文句を唱えてシャボン玉を吹き、ムクロジの実で作った石鹸液と、竹の細い管や葦の茎をストローにして売り歩く「サボン玉売り」は、子どもたちに人気だった。
ムクロジの種は、優子が大好きな羽根つきの羽根に使われた。
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