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よくオカルト本や神話の話に「死後の世界」というものが描かれることがあるが、それ以上の恐怖と異形の空間が広がっていた。
すぐ目の前ではドットの荒波が赤く燃え上がり、固形の光となって弾け飛んでいる。本やネットの中では到底描けない、地獄そのものがそこにあった。
(ここ…は……! こえが……出ない!)
棒立ちになり、視点も動かすことの出来ない俺の横を誰かが通り過ぎて行った。
「生きてっ! 生きてまたっ!!」
か弱い女の子の声だけがはっきりと聞こえた……。
あぁ……。もう何も出来ない。目も見えない 耳も聞こえない 喋れない 全ての感覚がない。
自分の持つものがひとつずつ消えていくような気がする…知識も、感情も、楽しかった思い出さえ…
その時お腹の辺りから強い衝撃のようなものが感じられた。長い間感じなかった感覚がすぐさま戻ったその瞬間、目の前には研究室があり、そこには現実世界があった。
そしてそこには、倒れ込んだ兄ちゃんがいた。
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