Ep.01『本の中だけでよかった』

9/9
前へ
/14ページ
次へ
よくオカルト本や神話の話に「死後の世界」というものが描かれることがあるが、それ以上の恐怖と異形の空間が広がっていた。 すぐ目の前ではドットの荒波が赤く燃え上がり、固形の光となって弾け飛んでいる。本やネットの中では到底描けない、地獄そのものがそこにあった。 (ここ…は……! こえが……出ない!) 棒立ちになり、視点も動かすことの出来ない俺の横を誰かが通り過ぎて行った。 「生きてっ! 生きてまたっ!!」 か弱い女の子の声だけがはっきりと聞こえた……。 あぁ……。もう何も出来ない。目も見えない  耳も聞こえない  喋れない  全ての感覚がない。 自分の持つものがひとつずつ消えていくような気がする…知識も、感情も、楽しかった思い出さえ… その時お腹の辺りから強い衝撃のようなものが感じられた。長い間感じなかった感覚がすぐさま戻ったその瞬間、目の前には研究室があり、そこには現実世界があった。 そしてそこには、倒れ込んだ兄ちゃんがいた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加