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「……お母さん、帰ってこないの……?」
「……。」
その時の政己は明らかに気を落としていた。いつもの笑顔が嘘かのように消えていた。
しばらくして徐々に元気を取り戻していったが、どことなくまだ落胆しているようにも見えた。
最近気づいたことだが、政己は案外勘が鋭い。自分が今どういう状況に立たされているのか、もう既に理解はしているのだろう。
「ケルベロスって、どの顔が長男だと思う……?」
この状況下でこの質問。先程の言葉、撤回したい。
「いいからお風呂入って来なさい」
「はぁい」
前々から一つだけ気になっていたことがある。政己の眼帯についてだ。風呂の時以外は、寝ている時も右目にずっと身につけている。
やたらとオシャレなものをつけていたので、早めにイタい時期が来ているのかとも思ったが、全く違った。
政己が風呂に入る直前、今まで見てこなかった眼帯の中が見えた。
いや、正確に言えば見えなかった。
政己には右目が存在しなかった。
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