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ザァーザァーと、あの日のように雨音が聞こえる。
ささやくようにあなたが私に言った。
「どうか、生きることをあきらめないで欲しい。決して、ついてこないで欲しい」
息も絶え絶えで苦しいだろうに。
あなたはそんなことを言うために
命を使うの?
最後の時間を使うの?
怒りと絶望と悲しみと愛情で、私があなたを見つめているのが分かるのね。
だからそんなことを言うのね。
私は、答えることが出来ない。
周りは息を呑み、部屋には大勢の人がいるのに無音の宇宙のように静まり返っている。
たくさんの透明な管をつけたあなたの顔を見つめ、どうしてこの世から去っていく人がこんなにもむごたらしくあちこちに線で繋がれているのだろう?と虚無感で吐き気がする。
真っ白な布団、
真っ白な服、
真っ白なあなた。
ほんの少しの入院だって言ったのに。
越したばかりの家はあなたの匂いもないまま私は一人でいたのに。
どうしてもっと早く、
あなたと出会えなかったんだろう?
どうしてもっと早く、
あなたをここへ連れて来られなかったんだろう?
どうして?どうして?
涙ももう出てこない。悩んでも苦しんでもあなたを失う事実は何も変わらない。
「どうか、オレを忘れて生きて」
それがあなたの最後の優しさで最後のウソだってことぐらい、私が分からないとでも思ったの?
私は大きく頭を振る。
「ううん、忘れない。絶対に忘れない。それが嫌なら生きて私と一緒にいてよ!」
雨がザァーザァーと降っている。
もう、あなたの声さえ聞こえない。
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