私が早死にする理由

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「ねぇ。私、きっと早死にすると思うの」 「殺害予告でも来たの?」 学校が終わった帰り道の電車の中。隣に座っている幼なじみの(レン)がこちらを見ずに、そう聞いてきた。 「昨日テレビでやっていたんだけど、心拍数と寿命って関係が深いんだって」 「へぇ」 「だから、アスリートは早死にするかもしれないって」 「運動したら心拍数が早くなるからって?そんな単純な話じゃない気がするけどね」 「でも、嘘かも知れないって」 「どっちだよ。でも、(アカリ)には関係ないだろ。運動しないし」 そう言って手に持っている文庫本のページを捲った。 「分かってないなぁ。心拍数が早くなる時は、何も運動だけじゃないでしょ」 「あぁ、そっちね」と呆れたように返事をする。 「もうね、本当に格好良くて、いつもドキドキして、心拍数が・・・」 「はいはい。今日の(マコト)君エピソードね」 文庫本を閉じ、視線を私に向けた。私も姿勢を正し、蓮の方へ体を向ける。 「いや、本当に聞いて欲しいの。今日もさぁ」 最寄り駅まで電車で二駅。時間にして15分。この15分が何よりも楽しい。 私が通っている公立高校では、一学年から三学年まで、毎年5つのクラスに分かれている。そして、私は三年連続で相田誠くんと同じクラスだった。 それってもう、運命的な何かじゃない? そう思って蓮に言ったが、冷たい幼なじみは「どうかな」といつものように呆れ顔で私を見た。 私は、誠くんが好きだ。 顔もタイプなんだけど何より、あの優しい笑顔がたまらなく好き。 入学した当初、各担当委員を決める時のことだった。 それぞれ挙手制で、割とスムーズに決まっていったが、どうしても保険委員だけは中々決まらない。 結局くじ引きになって、私が外れくじを引いてしまった。そこで男子も同じようにくじ引きをし、大蔵(オオクラ)くんが引いた。大蔵君は大声で「いや、やっぱりくじとか、駄目じゃねーの?」と今更な事をいって場の空気を壊したが、私も出来ればやりたくない。 でも、今更・・・と思っていたとき、「じゃあ俺が代わりにやるよ」と言ったのが相田誠くんだった。「変わって」と言って、大蔵くんからくじを取り上げ、「よろしく」と私に笑いかけた。 一目惚れだった。 委員会活動を経て、私は誠君と接する機会も多くなった。顔も、声も、性格も。私は日に日に誠君を想う気持ちが強くなっていった。 誰かにこの気持ちを言いたくて、でも恥ずかしくて言えなかった。 そんなある日のこと、電車で帰っていると一駅過ぎた所で蓮と鉢合わせた。 中学まで学校が一緒で家も近所。 蓮は私の数少ない男友達で、気兼ねなく話せる存在だった。 お互い帰宅部という事もあるのか、よく帰りの電車で鉢合わせた。 何度かお互いの近況を話す中で、私は蓮に誠くんの事を話したくなった。 私の話に蓮は最初こそ驚いた顔をしたが、それ以降は驚きもせず淡々と私の言葉に返事をしてくれた。 それが嬉しくて、それ以降電車では誠くんの事を話している。 「今日はね、消しゴムを落としたんだけど」 「うん」 「それを拾ってくれてね。素敵な笑顔で消しゴムを手に置いてくれたの」 「いや、普通拾うでしょ」と簡単に言うので私は即座に否定する。 「いや、前とか、隣の席とかじゃないよ。三つも離れていたんだよ。それなのに、わざわざ私の所に届けてくれたんだよ?」 「何で灯の消しゴムって分かったの」 「名前が書いてあるからね」 「小学生じゃあるまいし」 この無愛想な感じは小さい頃から変わっていない。 この無愛想な男が、悔しいことに女子にモテるらしい。 「蓮もさぁ。もう少し優しくなった方がいいよ?誠くんみたいに」 「俺は相当優しいと思うけどね。毎度毎度、灯の脳内お花畑ストーリーに付き合っているんだから」 本当に失礼な奴だ。 「それで、誠くんにはいつ告白するの。もうすぐ卒業だろ」 「そう、そこなんだよねぇ」 私は頭を抱えていた。私の恋を応援してくれているクラスメートの由里(ユリ)からは、「バレンタイン一択でしょ!今まで貰っていなかった女子からのチョコ。つまり、そういうことでしょ」とアドバイスを貰った。そう、告白する勇気は中々出ない。だからこそのバレンタインチョコ。言葉には出来ないけど、行動でなんとか想いは伝えられるはずだ。 バレンタインは来週の月曜日。でも、受け取ってくれなかったらどうしよう・・・。 「チョコをね、渡すつもりなの」 「・・・へぇ。頑張りな。心拍数が上がりすぎて倒れないように」 ぶっきらぼうにそう言う蓮の頭を軽く叩く。 「そんな無愛想でいると、また中学の時みたいに女の子を泣かすよ」 中学生の時、蓮は後輩の女の子を泣かせた事がある。 真っ赤な顔で、チョコを差し出し告白をした女の子に対して「えっと。誰だっけ?」と返したのだ。 その女の子はチョコを落とし、泣きながらその場を去っていった。 隣にいた私は、強く頭を叩いた。 「もっと女性の気持ちを理解しないと」 「それは灯もだと思うけど」 「私が何を理解してないって?」 「色々」 私の話が終わったと思ったのか、蓮はまた文庫本を開き自分の世界へと入っていった。
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