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雨乞いの町
「あ、琴音さん。雨です。」
雪乃は、窓を少し開けて振り返った。
「…雨?あら、本当。」
琴音が気だるい体を起こして、窓に近寄る。
ぱらぱらと降り出した雨は、すぐに大降りになった。
窓から下の通りを見ると、人々が外に出て騒ぎ始めている。
道端の街灯には灯りがともされ、先程まで静まり返っていた町が一気に活気づいていく。
「大変。あの方が来られますね。準備をしなければ。」
雪乃は嬉しそうに襖を開けると、駆け足で部屋を出ていった。
琴音は窓の縁に腰を掛け、重なり合う屋根瓦の向こう側を見つめた。
茶色く埃っぽかった大地が、雨で潤っていく。
次第にそこは大きな川となり、水面には町の灯りが反射してきらきらと輝き出した。
十日ぶりの雨。
恵みの雨。
ここに住む人々は、雨が降ることを待ち望んでいる。
雨はこの町に全てをもたらすからだ。
食料も着る物も、人も金も。
そして雨は、女たちの恋しい男を連れてきてくれる。
人々はこの町を「雨乞いの町」と呼ぶ。
そして、女たちはそれをもじって
「雨恋いの町」と呼んでいる。
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