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勇者アオイのやんごとなき現実
――勇者アオイ改め龍坐アオイは、現代日本では、そりゃぁもうバリバリのキャリアウーマンだった。
長いストレートの黒髪を靡かせ、ピシッとしたパンツスーツを身に纏い、肩で風を切って歩く姿は全女子社員の憧れだったと言える。
「あのハイヒールの音!アオイ先輩よ!」
「きゃぁぁ!アオイせんぱぁ~い!」
アオイの登場に女性社員達は俄に色めき立つ。
そう、彼女が鳴らすヒールの音が聞こえたら、男性社員は全員道をあけ、女性社員達は宝塚スターのファン達のようにその颯爽と歩く姿に酔いしれる――そうまで伝えられていた伝説のOLアオイ。
彼女は、勤めていた外資系企業での自分のポジションや仕事内容にも満足していたし、結婚を約束した幼馴染みの彼氏だっていた。
全てが非常に順風満帆だったのだ。
なのに、5年前のあの日――、
「勇者よ!!!異世界にいらっしゃぁぁぁい!!!!」
「おんぎゃぁぁぁぁ?!」
えらく美人な金髪碧眼ナイスバディの女神が……遊園地とかにある海賊船の船首の飾りのごとくバンパー部分にへばりついた軽トラックにはね飛ばされ、異世界入りをしてしまったのである。
「くっそぅ……あの女神、見つけたらしばき倒してやる……」
自分がこの世界に飛ばされた時の出来事を思い出しながら、舌打ちするアオイ。
だが、幾ら過去を悔やんでも仕方ない。
問題なのは今――これから、どうするかなのだ。
「正直、後継者育成とかは興味ないんだよなぁ……」
アオイはそうぽそりと呟く。
ちなみに、現実世界ではマナー講座の講師もつとめていた程言葉遣いが美しかったアオイだが――急な異世界転生と長い勇者生活の為やさぐれてしまい、言葉遣いにも若干の乱れが生じている。
「だって、この世界の……勇者とかに憧れる奴等ってさ?皆ガチムチの脳筋ばっかじゃん。無理。私、あんなのに毎日囲まれて暮らすなんて絶対無理」
アオイはそこまで告げると、余程ガチムチハーレムが嫌なのか、草の上でごろごろと悶絶し始めた。
「せめて、もっと美しいもので囲んでくれ~!!」
アオイは悶絶しながらそう叫んだ。
「でもですね?先ず、王都には、私の討伐成功の報告に行かなきゃじゃないですか?そうしたら、言われると思うんですよねぇ。後継者を育てろー、とか、最悪王子と結婚なんてのもあるかも」
「それが1番無理ー!!」
ルグゥスの言葉にアオイは悲鳴をあげる。
そう――アオイは、現実世界に置いて来てしまった婚約者のことを、未だに心から愛していたのだ。
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