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雨音
紫陽花の蕾が膨らんで、白い仁丹のような粒の中にポツポツと青い色合いが目立ってまいりました。
お母様は庭に降りられると、蕾に手を添えて仰ります。
「この時期の紫陽花には、たっぷりとお水を遣らなくてはね」
お母様は軒先の大きな茶色い瓶から竹柄杓で音を掬い上げ、お庭へと撒いてゆかれます。
パラパラ、シトシト、ザアザア、ピチョン
お母様が柄杓を振るうたび、雨音がお庭に広がります。
雨音は雲を呼び、空はどんより重く沈みはじめました。
「今年の五月雨はこのくらいかしら」
お母様は竹柄杓を瓶に立てかけると、濡れ縁にそっと腰を下ろされました。
やがてポツポツと雨粒が落ち、踏み石に濃い灰色の水玉模様を描きます。
私はお母様の隣に腰掛けて目を閉じると、サァサァとそよぐ五月雨の音色を楽しんだのです。
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