もっとも苦手な彼と一夜を共にしたならば

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「なにも知らなかった私がバカなの? 疑いもしなかった私がバカなの? もしかして、ずっと私を陰で笑ってたの?」 「森谷はバカじゃないよ。 相手が最低なんだ」 途切れなく、恨み言は続いていく。 けれど神園さんはそれを、一度も咎めはしなかった。 「私だったら浮気しても許してくれると思ったの? 笑って別れてくれるとでも思ったの? 私だって、傷つくのに」 「最低だな、そいつ。 森谷はこんなに傷ついてるのに」 神園さんの言葉が心地よくて、次第に気持ちは落ち着いていく。 「でも、子供ができたって言われたら、別れるしかないじゃない……」 「そうか、森谷は頑張ったな」 「……褒めて、くれるの?」 まさか、褒められるだなんて思ってもいなくて、思わず顔を上げる。 目が合った神園さんは、私の目尻に口付けを落として涙を拭った。 「森谷は頑張ったんだから、褒めるのは当たり前だろ?」 目尻を下げて彼が笑う。 その優しい笑顔を見ていたら、胸の痛みは治っていた。 「……ありがとう」 甘えるように彼の胸へ額を預ける。 「俺は礼を言われるようなことは、なにも」 私を抱き締め直し、神園さんは背中をぽん、ぽん、と叩いた。 その気持ちいいリズムと泣き疲れたのもあって、次第に眠くなってくる。
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