182人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「君とは結婚できない、別れよう」
呼びだされてきたカフェ、彼の第一声がそれだった。
彼がなにを言っているのか、まったく理解できない。
つい一週間ほど前、ご両親に挨拶へ行って、一緒に婚約指環を買った。
なのに、この期におよんで〝結婚できない〟なんて。
「……子供が、できたんだ」
言いにくそうに彼が言い、目を逸らす。
子供ができたって、私は妊娠していない。
じゃあ、誰が?
と、少し考えたところで、ひとりの人物を思い出した。
「……別れて、なかったんだ」
頭の芯がこれ以上ないほど冷える。
前に彼が浮気していた、彼の会社の人。
黙っていればいいのに彼女は、得意げに彼は自分と寝たのだと報告してきた。
慌てた彼は一時の気の迷いだったと謝罪してきて、私も許したのだ。
けれど、私は裏切られていたんだ。
「ごめん!
君との結婚が決まって、今度こそ別れようとしたんだ。
でも、子供ができたって……!」
勢いよく彼が頭を下げる。
だから、私に許せ、って?
そんなの、虫がよすぎる。
でも。
「……わかった」
「許してくれるのか!?」
期待を込めた顔で彼が顔を上げる。
しかし思いっきりその目を睨みつけた。
最初のコメントを投稿しよう!