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「お義父さんには本当にお世話になって……」
「いやいや、千里さん。僕がやったことはキッカケを作ったにすぎないよ」
忠雄が土下座をした週の土曜日、千里は義父に『話があります』と言って来てもらい、事の顛末を話した。話を聞いた義父は笑顔でその話に相槌を打っていたが、その目は忠雄を嘲笑っているかのような目だった。
この人にとっては、妻の軍門に下ることなど、負けるに等しいことなのだろう。
千里は内心で呆れ返っていたが、精一杯の笑顔を作った。
「それで、差し出がましいようですけど、もう一つお願いがあるんです……。お義母さんとの仲を、私としては修復したいんです、どうにか取持っていただけませんか?」
アイスコーヒーをストローで吸い上げながら、義父は急な申し出に吃驚した顔をし、しばらく沈黙した後に、コーヒーを飲み込んだ。
「いいよ、僕で良ければ、力になるよ」
「ありがとうございます」
千里はおもむろに義父の手を握り、満面の笑みで目を見た。
義父は唾を飲み込むと、その手を強く握りこんだ。
その手には、うっすらと汗の感覚があった。
その後、千里は口実を作り毎週義父と会った。最初は他人行儀だった義父も、その内に馴れ馴れしくなり、千里のことを呼び捨てで呼ぶようになった。千里もそれに呼応する形で、義父を名前で呼んだ。
会う場所も駅前の喫茶店から、近所のスーパー、都市部へ出てのショッピングへと広がっていった。
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