第一章 運命を変える出会い

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第一章 運命を変える出会い

 僕の名前は桐谷(きりたに)(みなと)。十五歳の高校一年生。僕がどんな人かって? うーん、そうだなぁ。まず、好きなものはカレーライスにハンバーグ。そうそう、いちごも大好きだよ! ええと、ええと、それから……カッコいいイケメンくん! なんちゃって。え? 僕の性別? 男だけど、それがなにか? 男の僕が男の人が好きだなんてホモなんじゃないかって? ピンポーン! 大当たり。僕は正真正銘100%ゲイの男子高校生なんだ。そんな僕の愛と恋の物語の始まり始まり~! __________  僕は、小学生の時からずっと同級生の男の子のことが気になっていた。特に、地元の少年サッカーのチームでエースだった「くーくん」こと()(たに)邦光(くにみつ)くんのことをずっと追いかけてたんだ。くーくん、いつも日に焼けていて小麦色の肌をしていてカッコよかった。僕が小学生だった時、よく「みなくんは可愛い女の子みたいな顔してるね」って言ってくれてた。それがとても嬉しくて、でも、それが何でこんなに嬉しいのかなって思っていたんだ。それがくーくんのことが好きになっちゃったからだって、僕が気付いたのは中学に入ってからだった。  くーくんとは同じ地元の中学に通っていて、クラスもずっと一緒だった。中学に入ったくーくんはどんどん身長も伸びて、声変わりもして男らしくなって、もっともっとカッコよくなっていった。僕、もうくーくんへの「好き」を抑えることができなくて、ある日の放課後、くーくんを呼び出して告白したんだ。だけど、返って来た返事は一言。 「きも」 だった。僕がくーくんに告白したって噂は、くーくんから学校中に広まって、皆僕から離れていった。小学校の時から親友だった友達にも無視されるようになって、僕、学校で居場所を失ってしまった。  僕は自分が変なことをしているなんて思わなかった。僕の中では男の子が好きなのは自然なことだったんだもん。でも、そのせいで友達が全員いなくなっちゃった。それはとてもショックだったけど、だからといって、自分自身を偽って暮らすのも嫌だった。だから、それからは誰かと関わるのをやめた。高校に入るまでずっと、僕はぼっちを通すことにしたんだ。  でも、ずっと一人でいるのも嫌でさ。だって、小学校まで僕って割とクラスで人気があったんだ。友達もたくさんいたし、皆で外で遊んだり、友達の家にお泊りしたり、常に隣に誰かがいた。それが突然誰もいなくなったことに僕は耐えられなくて、誰か僕を受け入れてくれる人がいないか探したんだ。そこで見つけたのがゲイ向け出会い系アプリ。  出会い系サイトなんて、怖い噂しか聞かないし、最初は抵抗がすごくあった。当時、僕はまだ中学生だったし。でも、ネットで調べていくうちに、中学生でも隠れてやってる子が多いことを知って、思い切って登録してみたんだ。年齢制限が十八歳になっていたから、年齢サバ読んで。顔写真のっけても、全然十八歳なんかに見えないんだけどね。特に僕、童顔だし。  でも、すぐにいろんな人からメッセージが来て、いろんなゲイの人に会うようになったんだ。皆、僕に優しくしてくれた。 「みなくんは可愛いね」  会う人ほとんどそうやって僕を褒めてくれた。僕の存在を認めてくれるのが嬉しくて、僕のことを受け入れてくれるゲイの人のことすぐに好きになった。そしたら、皆、僕を裸にしてエッチなことをしようとするんだ。最初はとても怖かったんだけど、でもエッチしてる間は特にみんな僕に優しくしてくれたし、気持ちよくさせてくれたし、可愛がってくれるのがうれしかった。  でも、アプリで出会う人との関係って長続きしないんだよね。一回エッチして、お互い気持ちよくなって、さよならして終わり。たまには普通の友達もほしくて、「エッチなしで会いたいです」ってメッセージしたら、ほとんどの人はそれだけで返信来なくなっちゃった。でも、アプリで出会う人との関係を失ったら、僕、本当に独りぼっちになっちゃうからやめることができなくなってた。  いつまでこんなこと続けて行くんだろうな、と思っていたけど、やめることもできなかった。そのままずるずる高校に進学しても、アプリでゲイの人に会い続けてた。そんな高校に入学してすぐの一学期が終わる頃のことだった。アプリやっていてよくあることなんだけど、メッセージが全然来ない日ってあるの。僕からメッセージしても、誰も反応してくれなくて、無視されてばかりでさ。それでも、何か反応がほしくて必死でいろんな人にメッセージしてた。そしたらね、担任の先生に僕がこっそり携帯いじってるところを見つかっちゃったんだ。 「桐谷、授業中に携帯を使うのは禁止だ。これ、没収な」 と言って、先生が僕の携帯を取り上げた。僕は携帯を取り返そうとして先生に飛びついた。 「あ、ダメ! それ、僕の携帯!」 「だめだ。放課後、職員室に来い」  先生の言葉がすごく冷たく響いた。僕、それから落ち着かなくなっちゃって。早く携帯取り返さないと、アプリができない。アプリができなかったら、学校の中で孤立している惨めな僕に向き合わなきゃいけなくなる。これまで、他の子と仲良くなくても、アプリの人とメッセージしている間はクラスメートのことを忘れられたんだ。携帯の画面の中が僕にとっての逃げ場だった。でも、それが奪われちゃったんだ。僕にとっての唯一の居場所が失われちゃった。  それに、携帯を先生に取り上げられた僕に刺さるクラスメートの視線が冷たくて、痛くてたまらなかった。誰も同情してくれる子なんかいなかった。ただ、ぼっちで陰キャの僕が先生に怒られたって、蔑んだ目でじっと見るんだ。仕方ないよね。クラスメートの子とあいさつだってまともに交わしたことなかったんだもん。変なやつだって思われても仕方ないと思う。でも、中学時代に皆に冷たい目で見られたあの視線を思い出して、震えが止まらなかった。  放課後まで僕はずっと落ち着かなかった。ずっとそわそわして、携帯が手元にないことがこんなに苦しいことだとは思わなかったよ。拷問ってこういうことをいうのかなってちょっと思った。やっと夕方のホームルームが終わった瞬間、僕は先生の元にダッシュしたんだ。 「先生、僕の携帯……」 「職員室に来いって言ってるよな。一緒に来るんだ」  僕はイライラした。いつになったら僕の携帯は僕の手元に返って来るんだろう。そう思って、やきもきしながら先生について職員室まで歩いて行った。でも、職員室に入った瞬間、僕は凍り付いた。そこには、僕のお父さんとお母さんが立っていたんだ。
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