第六章 想い人のけじめ・想われ人のけじめ

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 せっかくのラブラブなバレンタインデーになるはずが、くーくんの事件で全て吹き飛んでしまった。あーあ、(りょう)と付き合って初めてのバレンタインデーだったのにな。あ、そういえば、嶺のやつ、僕以外からチョコ貰ったりしてないよね? 「嶺、あの、さ……」 「うん? なんだ?」 「嶺ってモテるよね?」 「は? なんだ、(やぶ)から(ぼう)に」 「バレインタインのチョコ……」 「あ、もしかして、(みなと)、俺にチョコを渡した人間がお前の他にいるんじゃないかと心配なのか? あはは、いねぇよ、そんなやつ。皆、俺とお前が付き合ってること知ってるしな。義理チョコ一つ、貰ってねぇよ。あ、そうだ。(れい)()からのチョコもなかったな。あいつもやっと諦めがついたのかもな」  麗華さんか。(あい)()くんの一件以来、顔も合わせてないけど、そういえば、もう僕も嶺もほとんど関わりがなくなったんだよな。もう、嶺への想いは断ち切られたってことなのかな? とりあえず、嶺のことは心配なさそうだ。  僕? 貰う訳ないじゃん。クラスに友達なんかいない……、いや、最近は少しずつ(きょう)()と仲良くなり始めたよ。意外にいいやつなんだ、恭太。でも、恭太が僕にチョコくれたりするわけないでしょ? だから、嶺からもらったチョコレートが一つだけ。そう思っていたんだけどね……。  バレンタインデーからもう二週間が経とうとしていた時のことだ。掃除当番のせいで少し帰りが遅くなる嶺を、僕は校門の前で待っていた。すると、久しぶりに麗華さんが下校する姿が目に入って来た。麗華さんはもう僕にとっては「嶺の元カノ」というより「愛季くんのお姉さん」という印象の方が強くなっている。特に嶺のことで麗華さんを意識もせずにいる自分に気が付いた。  麗華さんが僕の前まで歩いて来る。「どうも」と頭を下げてそのまま麗華さんが通りすぎるのを眺めていたのだが、麗華さんは僕の横を通りすぎるのではなく、まっすぐ僕の方へ歩いて来た。え? 何か用なのかな? 「今日はあなた一人なのね」 「え? うーん、そうでもないよ。嶺がもうすぐ掃除当番を終えて僕と合流するんだ」 「そうなの。じゃあ、あまり時間がないわね……」 「時間がないって?」 「これ……、あなたに。愛季のことでお世話になったお礼よ」  麗華さんが小さな包みに入ったチョコレートを僕に差し出した。 「え? もうバレンタインデーは終わったよ?」 「知ってるわよ! でも、あなたがいつも嶺のそばにいて、渡すタイミングがなかったんだもの……」 「えー? 気を遣わなくてもいいよ。愛季くん、元気になってよかったじゃん。それだけで十分だよ。それに、もうバレンタインデーから二週間は経つよ? 賞味期限とか大丈夫なの?」  手作りのチョコレート菓子に「賞味期限」があるのかどうかはわからないけどね! 「ば、バカなこと言わないで! あなたに渡すタイミングがなくて、これ、わざわざ作り直したんだから……」 「え? 作り直したの!? 僕のために?」 「そうよ。だから、受け取りなさいよ。いい? 勘違いしないでよね。これは、絶対に本命チョコじゃないから」  麗華さんはぶっきらぼうにそう言うと、僕に押し付けるようにチョコの包みを手渡した。 「知ってるって。僕には恋人もいるからね。あ、でも義理チョコなら嶺の分もあるの? そういえば嶺、まだ義理チョコも誰からももらってないって言ってたよ。嶺の分も渡すタイミングがなかったんだったら僕から渡しておこうか?」  すると、麗華さんは真っ赤になった。 「そ、そんなものあるわけないでしょ! あんな人に渡すチョコなんてないわよ、義理だって……」 「えー? じゃあ、僕だけ貰うのも悪いよ。気持ちだけ受け取っておくからさ」  僕は麗華さんのチョコを返そうとした。 「いいからもらって! お願いだから……」 「悪いってば。僕だけもらうの、嶺と気まずくなるし」  僕と麗華さんがチョコの包みの押し付け合いをしていると、 「おーい、湊! 麗華も一緒なのか。なにしてるんだ?」 という声がした。見ると、嶺が僕の方に歩いて来る。 「あ、嶺だ。じゃあ、ごめんね。これ、返すよ」 と、僕は麗華さんにチョコの包みを押し付けると、嶺の方へ駆け出した。 「嶺!」  僕は嶺の胸の中に飛び込んだ。 「あはは。湊は今日も甘えん坊だな。そういや、麗華。湊となんの話をしていたんだ?」 「なんかね、僕にバレン……」 「もう! なんでもないわよ!」  麗華さんはなぜか、僕が「バレンタイン」という一言を言うのを遮り、そのまま顔を赤くして走り去ってしまった。 「なんだ、あいつ?」 「さぁ……」  僕は結局、麗華さんからの義理チョコを返してしまった。いくら義理チョコだとはいえ、嶺はもらえず、僕だけもらうのはちょっと嫌だ。愛季くんのお礼なら、嶺も一緒に病室に僕と一緒にお見舞いに行っていたんだし、嶺にしてもいいようなものだ。全く、麗華さんったら何だって僕だけに義理チョコなんか。  だけど、この話を聞いた恭太は笑いながら 「お前も罪なことするよな」 と言った。 「罪なこと? なんで?」 「それ、()(はら)先輩からの告白だったんだよ」 「告白? まっさかぁ! だって、僕、麗華さんの恋敵だったんだよ?」 「昔の、な?」 「まぁ、昔のことだけど……。だから?」 「本当、お前も鈍いな。ま、受け取らなかったのは正解かもね。お前にその気がないんだってことをはっきり示した訳だし」 「はぁ。へぇ……、そうなんだ」  恭太も変なこと言うよね! 麗華さんが僕に告白? ないない、そんなこと!
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