第七章 もう子どもじゃないよ

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「お前もなんだかんだいろいろあったんだな」  (しょう)くんが、一郎(いちろう)信一(しんいち)(こう)()を見送りに行っている間に少ししんみりして言った。いつも僕を目の敵にしている翔くんがそんな神妙な顔をするのを見たのは初めてだった。思わず僕も神妙な面持ちになってしまう。 「こいつはこいつなりに一生懸命生きて来たんだよ。俺は(みなと)の生き方、尊敬してるんだ」  (りょう)が僕を抱き寄せながら言った。 「もう、やめてよ、二人とも。そんなこと言われたら恥ずかしいよ」 「あはは、恥ずかしがりやの湊可愛い」  嶺が僕の頭を撫で回した。 「本当に仲いいよな、お前ら」  翔くんがそんな僕らを呆れた目で見て言った。 「いや、お前に言われたくないわ」 と嶺が言い返す。 「そっか? そりゃ、一郎は世界一可愛いからな」  デレっと鼻の下を伸ばす翔くんに、僕と嶺は顔を見合わせて笑った。 「でもさ、俺、お前らすげぇと思うよ。親に認めさせたんだろ? 俺はそんな勇気はまだない。晃司みたいに親に拒絶されたら、一郎との関係だってどうなるかわからないし」  いきなり翔くんが真面目ぶってそんなことを言い出すので僕は面食らった。でも、翔くんは至って真剣のようだ。僕が親に認めさせた、か。半分以上兄ちゃんのおかげな気もするけど、ここはありがたく翔くんに称えられとくか。 「なんか、ありがとう……。でも、僕にとっては翔くんの方がすごいと思うよ。一郎と二人で学校のみんなの前でカミングアウトするなんて僕にはできない。学校のみんなには多分僕がゲイで嶺と付き合ってることはバレてるけど、クラスでカミングアウトしたりしたことはないもん」 「やめろよ、湊。いつものお前らしくないぞ」  翔くんが顔を少し赤らめた。 「えへへ、そっかな? でも、翔くん、ごめんね。翔くんと一郎のこと見ていたら、やっぱり一郎は翔くんと一緒にいるのが一番だと思った。翔くんといる時が一番一郎は幸せそうなんだ。そこに僕が割って入って、一郎を奪おうとしたりしてさ。本当はわかっていたんだ。翔くんには僕は勝てないって。でも、今でもこうやって仲良くしてくれてありがとう」 「バカ! そんなこと湊が言うんじゃねぇよ。お前はいつもポジティブシンキングで突っ走るタイプだろ? そんな物分かりのいいこと言うなんて、湊らしくないよ」  翔くんはこっそり目をゴシゴシこすっている。 「あれ? 翔くん泣いてるの?」 「泣いてない」 「だって今涙拭いてたでしょ?」 「拭いてない。目が痒かっただけだ」 「へぇ。随分タイミングよく目が痒くなるんだね」 「湊、この野郎! ちくしょう! 一瞬でも湊に感動した俺が馬鹿だった」 「あ、今僕に感動したって言った! やっぱり泣いてたんだ」 「ああ、もううるせぇ! いい加減にしろ、このクソガキ湊!」 「ねぇ、嶺。聞いた? 翔くんが僕のことクソガキだって。ひどくない?」 「いや、どっちもどっちだと思うよ?」 「どっちもどっちじゃないもん!」 「そうだよ。どっちもどっちなんかじゃねぇよ!」 「あ、ほら、今二人の意見が合った。やっぱり二人は仲良しだな」  嶺は僕と翔くんをケタケタ笑った。 「もう、嶺のバカ!」 「嶺、この野郎、てめぇ!」  僕と翔くんが嶺を追いかけ始めた。 「あれ? 何か楽しそうじゃん。追いかけっこ? 嶺くんが鬼なの? 僕も入れてよ!」 と、そこに一郎も飛び込んで来るからカオスだ。僕たちはキャッキャと笑いながら一郎の家で暴れ回った。久しぶりに小学生に戻った気分で頭が空っぽになるくらいはしゃいだな。やっぱり一郎と翔くんといると楽しい。ゲイの親友って、ノンケの友達とちょっと違って特別だ。ノンケの友達に言えないことでも、ゲイの友達になら言えることっていろいろある。ゲイ同士だからお互いに理解し合えることもね。  いつか、この二人ともっと一緒にいられるようになればいいな。例えば、四人で一つの家族になるとか。今、シェアハウスってあるじゃん? ああいうやつ。こんな感じでいつもわいわい暮らしていけたら楽しいだろうな。僕はそんな夢を密かに抱くのだった。
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