第七章 もう子どもじゃないよ

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 久しぶりに四人で集まった僕たちは、夜中に枕投げをしたり、じゃれ合ったり、ずっとずっと笑い合っていた。でも、そのおかげですっかり年上組は寝坊をかました。朝七時半に誰よりも早く目覚めた僕は、ちっとも起きて来ない(りょう)(しょう)くんに腹を立てていた。だって、一人で起きていてもつまらないんだもん。でも、一郎(いちろう)は違う。年上組よりも一足早く目を覚ましてくれたんだ。 「(みなと)、おはよう。もう起きてたんだね」 「一郎、よかったぁ。僕、このままずっと誰かが起きて来るまで待っていなきゃいけないのかと思った」 「湊は元気なんだよ。僕はまだ眠いや」  一郎は大きな欠伸をする。 「一郎、寝ちゃやだよ! そうだ。僕とちょっと散歩でも行こ!」 「散歩? もうちょっと寝かせてよ。二度寝して起きたらね」 「ダーメッ! 僕と散歩してくれなきゃ嫌だ!」 「もう、湊はしょうがないなぁ」  一郎が渋々布団から這い出して来た。 「うう、寒い!」 「じゃあ、僕が抱いて温めてあげようか」 「いや、それは気持ちだけでいいや」 「なーんだ。つれないなぁ」  僕と一郎はキャッキャとはしゃぎながら外に散歩に出た。部屋の中は寒かったが、外はだいぶ暖かい陽射(ひざ)しが差し込むようになって来た。朝日がぽかぽかして気持ちいい。僕たちは河川敷の草むらに寝転がった。思いっきり伸びをする。ふう、気持ちいいや。 「昨日はありがとね。晃司くん、湊の話聞いてだいぶ気持ちが落ち着いたみたいなんだ」 と一郎が切り出した。 「いいっていいって。それに、一郎の方がちゃんと話を聞いてあげられていたじゃん。僕はああいうところでふざけちゃうからさ。あの子の気持ちが変われたんだったら、それは一郎のおかげだと思うよ」 「あー、確かに湊はちょっとおちゃらけすぎる所はあるね」 「一郎にそこまではっきり言われるとちょっと傷つく……」 「なんだよ、自分で言い出したくせに。でも、そうやっておちゃらけちゃうところも悪い所ばかりじゃないよ。湊の可愛いところの一つだしね。僕はそんな湊が好きだよ」 「僕も一郎が好きぃ!」 「おっと、ハグはなしだよ。翔だけなんだからね、僕をハグしていいの」 「ふんだ。僕をハグしていいのも嶺だけだよーだっ!」  一郎もだいぶ僕のを心得てきたらしい。以前のように、少し(から)()っただけであわあわ慌てた可愛い表情を見せてくれていたのが、今はちょっとやそっとでは動じることがなくなった。一郎も大人になったのかな。それがちょっぴり寂しい。 「こんなこと言ったら上から目線だけど、でも、湊って最初に出会った時から見違えるくらい成長したよね」  しばらく僕と二人で並んで水面を眺めていた一郎がポツリと言った。 「もう、そんなに成長していないよ。僕、この一年で一センチしか身長伸びなかったもん。さすがに、大人になるまでに165センチにはなりたいな。後3センチ伸びるかな?」 「そういうことじゃないよ。精神的にってこと」 「精神的にも僕は子どものまんまだよ。嶺にはすぐ甘えちゃうし、すぐ泣くし、あまり深く考えたりすることもないしさ」 「そんなことないって。だって、湊がいなかったら、晃司くんとあそこまでちゃんと話せなかったもん。昨日、湊がお兄ちゃんに見えた」 「そっかな?」 「そうだよ。だって、家出して僕ん家に駆け込んで来た時とか、僕に告白した時の湊は、今みたいに誰かの相談に乗るってことなかったでしょ? でも、僕が昔のいじめっ子に再会して、精神的にキツかった時も、湊に話を聞いて貰って僕の心の中も整理できたしさ。今の湊はとっても頼りになるんだ」 「昔の僕は……、その、まだ若かったというか……」 「今でもほとんど同じでしょ! 十五歳が十六歳になったくらいで。でも、年齢はほとんど変わらなくても、湊の中身は十年分くらい成長したんじゃない?」 「やっだよ。もう二十五歳になったってこと? アラサーじゃん。僕、高校生なのに、まだそんなおじさんじゃないよ」 「それ、世のアラサーの人たち全員に喧嘩を売る発言だと思うよ」 「てへへ」 「あ、でも、かまってちゃんな所はまだ小学生って感じだけどね」 「かまってちゃんなんてひっどいなぁ」 「だって、今朝も湊がわがまま言うから、こうやって朝の散歩に付き合ってあげてるわけだし」 「……だって、一人で起きてるのつまんなかったんだもん」 「そうやっていじける姿も小学生みたいで可愛いね」 「いじけてないもん。一郎のバーカ」 「あはは。だから、小学生の湊と二十五歳の湊が合わさって平均したら、今の高校生の湊くらになるって感じだね」 「なんなの、その変な理屈!」  僕は思わず笑い出した。でも、小学生か二十五歳かって、もうちょっと年相応な部分ってないのかな? 僕も一介の男子高校生らしい男子高校生になりたいもんだ。  でも、成長していると言われるのは素直に嬉しい。いつまでも子どもっぽいままじゃダメだなと思っていたし。(こう)()を前にした僕が「お兄ちゃん」みたいか。僕はずっと兄ちゃんに甘えばかりの甘えったれな弟だったけど、いざお兄さんらしいと言われると気分がいい。もっとお兄さんらしいカッコいい高校二年生になるぞ! 今度は一郎に三十歳の貫禄なんて言われそうで怖いけどね。
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