第5章. 繋ぐ日々

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ーこのトークで次会う計画をぼちぼち立てながら 会える日を待つとします… 日曜日の夕方のCM、チェックしてね… こんな感じで締められたトークを見て 少し胸が熱くなるのを感じた。  ビジネスで会話をしてるのであれば 普通はこんなことは言わない、 ーまた会いに来て ーすぐ会いたい 言われる側は確かに心地よいが それは明らかに“早く来てほしい”と言う ビジネストークなのは明らか。 さりーはそんなことを一言も書かなかった そしてこの後も来店をせがむどころか ー無理せず来れる時に来てね ー私はここでいつでも待ってるから そんな言葉で俺を安心させてくれた。  ひねくれた輩からすれば 「金にならない客にはそう言ってるんだよ」 なんて言うかも知れない。 ふざけんなよ!そんな奴がいたら 俺はきっとそう恫喝するだろう。 そんな女の子が長い文章を毎日のように送るか? ー 昨日のこと思い出して ひとりゲラゲラ笑ってる午後2時 なんて言葉をくれるか?  俺がさりーに惹かれる大きな要因 それは飛び抜けたビジュアルだけでなく この細やかな気配りの出来る優しさと人間性 どちらも兼ね備えていると確信したからこそ 再び会いに行ったのだ。 まさかここから何か恋愛じみた物語が始まるなどと 浮わついた想いは抱いていないが さりーは少しずつ心の距離を縮めてくれている、 そう実感することがトークの端々から感じられた。  基本、彼女がトークを返信するのは 出勤中の時間帯のみと記されている。 それがある時はお休みの日、日曜の午後だったり 明らかに自宅にいるであろう午後10時過ぎだったり、と 明らかに出勤していない時間帯に返信が届く、 そんな回数が少しずつ増えていった。 俺は図々しくも彼女の心の中に少しずつ 入り込んでいるような気がしているのでは? そんな思いさえ抱くようになっていた。  そしてさりー自身もまたそんな現状を 決して悪くは思っていない ー趣味がメインで時々仕事忙しそうな光々が 時間取れる時まで大人しく待ってまーす、 お互いがんばろうね! もう、いち客人と店員の会話じゃないよな… 俺の気持ちはますますさりーへ傾倒していった。 ーまたちょこんと乗っかってきゅんきゅんさせなきゃ… ーピアスの穴、数えに来るの待ってるね など実際のエピソードを交えながら お互い好きな音楽やらアニメやら 趣味の話に花を咲かせる。 もうこのトークの本来の用途とは違う SNSでのDMのようなやり取り、 いや、DMでも これまで誰ともこんなやり取りはしたことがない。 それはまるでSNSなどなかった俺の学生時代に タイムリープして彼女とやり取りしている、 そんな感覚にすら陥りそうだった。 おそらく未ださりーはその素性の全てを 明らかにしていないだろうが 心の内は少しずつ見せてくれている、 俺はこの出会いをフィクションのみでなく やはりドキュメントとして残したい、 これは正に俺にとって人生最後に訪れた 青春時代らしき時間 あの頃の忘れ物を取りに戻れたら… などと懐かしくも切ない学生時代の失恋、 その余韻に浸りながら 構想を始めた「レイナ」の続編とは別に そんな想いを重ねつつ いつしか俺は「期間限定フレンズ」を 「レイナ」の続編「サリー」より優先する形で 記憶の糸を手繰り寄せながら執筆を続けていた。
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