第5章. 繋ぐ日々

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実は俺にはもうひとつ直接伝えたいことがあった さりーと二度目に会ってから俺は この不思議な出会いを自作曲として作り上げたい そんな思いに駆られ その日から一心不乱に歌詞を書き始めた。 こう見えて俺はオリジナル曲を作って 動画に上げている、 この曲を世に出すことで人知れず 俺とさりーとの誰も知らない物語を 形として残そう、そう決心した もちろんあからさまに 感情や場景を言葉で吐露するのではなく そう、二人にしかわからない世界観で。 そうなると曲作りには大幅な時間を要する、 1曲を仕上げるのに凄まじい労力と思考を フル回転させなければならない。 と、なると暫くの間、 制作に集中するため来店を控えて 少なくともさりーにこの場所で会える間に 直接聴いてもらいたい。 いつ会えなくなるかわからない世界だ、 普段の砕けた感の会話ではなく 出会いへの感謝の気持ちを伝える手段として、 そして…ひとつの作品として。 小説のみならず風俗で出会った女の子をテーマに 曲を作ろうとする常連客などいるだろうか? やっぱり俺はどこかイカれている。 だが、そのことをさりーに伝えたら… 喜んでくれるのではないだろうか? だが曲を作ると言うのはそう簡単なものではない、 次会えるのはいつになるかもわからない。 ここで数ヶ月のブランクが空いてしまうと さりーの中で俺の存在そのものが消えてしまうのでは? しかしもう会えなくなってからでは遅い ここで会える時に俺の曲を聴いてほしい ふたつの想いが複雑に絡み合う中、 気づけば俺はお店の待合室に腰掛けて いつもの電話のベルが鳴るのを待ちわびていた。 そして…いつものプルプルという音が鳴り響き 俺は初めて“サプライズ”を敢行する どんな顔でさりーが迎えてくれるのか それだけを楽しみにして。 そしてスタッフさんに案内されカーテンの前に ふわっとカーテンを開くとそこには 驚きの表情で笑顔を浮かべるさりーの姿が。 この表情、いつかどこかで見たことがある… そう、かつてサプライズで レイナと二度目の再会を果たした あの時の表情をふと思い出したのだが もはやそんな過去の思い出すらさりーの前では無力だ。 過去の美談たちすら上書きしてしまうほど 俺の中でさりーの存在は大きくなっている。 あのレイナですら 現在進行形のさりーとの日々にはもう勝てない、 過去の美しい記憶たちは今や 全てさりーとの思い出にすり替えられている。 「もぉ~!どうしたのー!」 「あ、何か会いたくなって…さ」 俺の悲壮な決意を知ってか知らずか さりーはこれまでにないくらいの笑顔で俺を出迎え “あの場所”へと誘導してくれた。 そして再びまたあの妖艶な時間が幕を開けるのかと思いきや さりーは部屋に入ると開口一番、 「ねえ!この服の背中のファスナー下ろしてー!」 「え?どうしたの?」 「う○こが出なくてお腹パンパンだから手が届かないのー!」 「はぁ~?女の子が"う○こ"とか言う?」 「だってもう何日も出てないんだもん」 「ほんとに…さりーは」 こんなこと…他の客にも言うだろうか? 何となくさりーは俺にだけ素の姿を見せてくれている? そんな錯覚にすら陥った… やはりさりーはトークの中のさりーと同じ、 プレイの時以外は明るくて楽しい女の子だ、 いや、プレイの時ですら楽しい… 普段着感覚の彼女に対してはやはり 無理して重い空気や淫靡な展開に持ち込むのは… やめよう。
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