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最後まで、あの女は、いまにも泣きそうな顔を演じて、頭を何度も何度も下げた。――それは、明らかに、おれに対する復讐、だった。ただ、この事実を知るのはこの世にただひとりのみ。おれだけだ。
「畜生。……畜生が……!!」
妻の生けた花瓶を手に取り、叩き割った。それから、飾ってあった写真立ても投げつけた。腹が立つ……ああ、腹が立つ!!
あの女は。裏で舌を出してやがる――おれを、出し抜いて、自分が、世界の、悲劇の主人公、ってな顔をしてやがる。――くそが!!
みんな、騙されてやがる!! ……しかし、アンスタもSNSもやらないおれに、発信のしようがない。せいぜい、友人知人にメッセを送る程度のものしか出来ないが……どうやら何名かからはブロックされている。よって、おれが、真実を吐き捨てる相手は、どこにもいない。畜生!!
いったいどんな顔をして、妻を、迎えてやろうと思った。散らかして割れた散々なガラスや花はそのまんまにしておいた。おれがするべき仕事はこれではない。妻が――妻がするべき仕事なのだ。これは。
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