俺は朝に向いてない

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俺は朝に向いてない

最後に朝起きて朝日を見たの、いつだっけ…。 俺は30にもなってコンビニでアルバイト。 高卒後、何度も転職をしてようやくここに 落ち着いたところだ。 朝起きるのがめっぽう苦手な俺は、 朝から始まる仕事が苦痛で仕方なかった。 ここは、夜勤ばかり入れてくれる。 しかも、助かるとさえ言ってくれる。 ダメ人間の俺でも必要とされることが嬉しかった。 一方で、兄は昔から賢いエリート。 大学卒業後は有名企業に就職、 結婚もして、子供も二人いる。 生きてるだけで親孝行な男で、性格も良い。 そのおかげで、親は適当に生きている俺には 何も言ってこない。というか諦めている。 もしかしたら俺の存在すら無かったことに されてんじゃないか、とさえ思う。 高卒後一人暮らしを初めてから 家族に会うのは一年に一回あるかないか。 最初の頃は盆や正月ごとに帰ってこいと 言われていたけど今は何も言われない。 会ったって、良い報告ができないから 俺は家族を避けてた。そんな俺を両親も避けてた。 だけど、兄だけは違った。 俺を頻繁に遊びに誘い、連れ出してくれた。 おかげで姪っ子と甥っ子には懐いてもらえた。 仕事のことや、俺を責める事は一切言わなかった。 どこまで良い兄なんだろう、と弟ながらに思った。 そんな兄が「お前はすごいよなぁ。」と突然 俺のことを褒めた。意味がわからない。 「何が?」 「毎日夜中働いてるんだろ?すごいよ。」 「そんなことないよ、だって俺、朝苦手だもん。 にぃは、昔から早起きが得意だったから いつも羨ましかった。」 「まぁ、子供の頃は、早起得意な方が 得な気がするよな。俺もそう思ってた。」 「?」 「だけどさ、今は夜中に起きていられる人を 本当に尊敬するんだよ。…知ってるか? 赤ちゃんって夜中2、3時間おきに起きてきては ミルクをあげなきゃいけないんだよ。 母親は、それを毎日、数ヶ月続けんだ。 俺もサポートしたかったけど、夜中起きるのが 苦手だったから嫁さんに任しちゃって。 なのにさ、文句言わずやるんだよ。 絶対大変なのに。 一人目のときも、二人目のときも ろくに手伝えなかったから今度こそは 手伝うぞ、とは思ってはいるけど…。 お前になれたらな、ってその度に思うよ。 お前はきっと、良い父親になるよ。」 「…にぃの唯一の弱点って、夜中だったんだ。」 「まぁ、そういうことになるなっ。」 「ありがと、にぃ。俺、自信出てきたわ。」 その夜、俺は付き合っている彼女にこう話しした。 「あのさ、俺、転職してばっかのダメなやつだし、 朝いつも起きられなくてデートの度に 君を怒らせるし、どうしようもないヤツだけど。 このまま、店長にならないかって話があるんだ。 俺も、コンビニが天職だと思ってるし、 その話を受けるつもり。 もし、店長になって収入が安定したら… 結婚してくれない?」 「ちょっと…。嬉しいけど、急に、どうしたの? まだしばらく、結婚はしたくないんじゃ 無かったの?」 「結婚したくないんじゃなくて、 自信が無かっただけだよ。 でも、一つだけ自信をもって言えることがある。」 「ふふふ、何?」 「俺は、良い父親になるよ。 休みの日は、夜中に絶対起きて、君を全力で サポートするって、約束できる。 子供が大きくなったら、君達が眠る頃に 俺は働いて、朝君達が起きる頃に帰ってくる。 君達を見送ったあとに俺は寝て、 また君達が帰ってくる頃に、俺は起きる。 つまり、どういうことかと言うと、 長い時間家族と、君達と、一緒に過ごすことが できるんだ。どう?なかなか良いと思わない? ってことで、改めて。 俺と、最高の家族になってください!!!」 「…それって多分、本当に最高だね! こちらこそ、お願いします。」 「…よっしゃーーっ!!! 待っててくれてありがとう、絶対に幸せに…」 「ちょっと待って、その前にっ!」 「え、何…?」 「私や子供たちとの予定がある時だけは 早起きする約束ね。あと、私が夜中に 頑張ったときは、スイーツ買って帰ること。 その代わり朝ごはんは豪華にするから。」 「うん、わかった…!」 「じゃあ、今日も、お仕事頑張ってね。 いってらっしゃい!」 「行ってきます!!」 朝が苦手な人間は、社会不適合者だと 言う奴がいる。 いや、それは誰かが言ったんじゃない。 自分で自分をその言葉で呪いにかけていた だけだったんだ。 朝には朝の、夜には夜の良さがある。 出勤前の星空を見ると俺は頑張ろうと思える。 朝日を見ると今日もよく眠れそうだと思える。 感じ方の違いはあれど、輝く星空も朝日も 同じように美しく思えるんだ。 両親に、今度彼女と帰るって連絡しなきゃ。 きっと母さんが美味しい夕飯を作って 待ってくれているに違いない。 寝起きの俺にとっては少し重めの夕飯が…。
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