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母さん曰く、叔母はシングルマザーで子供は愛した人との子供らしい。
しかし、いろいろと事情があって一緒に亡くなったと。
親戚にも尋ねると、母と同じ反応だったことから何か大きな事情があったのだろう。
それからは母の言いつけ通りに大人になるまでずっと待っていた。
「返して……」
母さんにそろそろ聞こうかなと考えていたところに幼い声がした。
振り返ると、青白くて不健康そうな男の子が立っている。
普通ふすまが開いたりしまったりする音がして誰かが来たのがわかるものなのだが、この子はいつの間にか知らない間にこの部屋にやってきた。
身なりと顔から葬儀にやってきた親戚の子供たちではないとわかる。
もしかして隠し子だろうか。
それにしても、死んでいるんじゃねえのと思うくらいこの子の顔色は悪い。
土気色っていうやつ?
「返してって、これのこと?」
「うん。僕のだから」
「……ははは」
男の子は突然私が笑い出したことに驚いている。そして何なんだ、この女と訝し気に見つめて来た。
「おいおい、冗談だろう。面白いなあ。この車の持ち主はとっくに墓の中だ。君が車の持ち主だなんて本当かい? 写真の男の子に似ているようだが、本当におまえさんだと証言できるかい?」
「嘘じゃないもん、本当だもん。それは僕のミニカーなんだもん」
「はっはっはっは……。もし本当なら申し訳ないが、それを渡せるかどうかは私一人では決められない。お父さん、いや、お母さんかな。現当主様に頭を下げてもらいな」
と笑いながら軽く挑発してみる。
男の子がその場を去る気配はない。
男の子は再び返してほしいと頼んできた。
「どうしても欲しいんだな、そっかそっか……。ならいちにのさんという合図で私があんたに近づくよ。あんたも私に近づいてこい。西部劇でよくガンマンが一発で勝負するやつあるだろう。あれの要領で私たちは互いに近づくってやつよ」
「わかった」
先ほどから相手と会話してなんとなく感じている。
この子、生気がねえなあと。
だから、母さんたち必死にこの子を閉じ込めていたんだと理解する。
間違えてねえよ、これは良い対応だ。
自分が誤解していたことを心の中で詫びつつ、私はミニカーを持って近づく。
男の子の目に映っているのは真っ赤なミニカー。
いちにのさんという合図を元に少しずつ進むはずが、駆け出してきた。
にやりと笑った私は男の子の頭をがしりと掴み、そして床にたたきつけた。
それと同時に私たちは庭へと瞬間移動する。
畳から土へと男の子の頭はたたきつけられる。
男の子の希望の表情が絶望の表情へと変わっていった。
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