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小さく震えた声だった。
……なんて狡くて弱いんだろう。
自分が何を言ってるのか、分かってる。
それは冬馬に全てを捨ててと言ってるのと同じだ。
「……後悔するだろ。お前が」
冬馬の目を見れば苦しそうに、そう言葉に出した。
後悔……当たり前だ。帰らなければ、これからの人生、何度も後悔して傷付けた人達のことを思いながら荊の道を歩むのだから。
でもそれでも、もう冬馬に手を伸ばさずにはいられなかった。
いつだって、恋しくて、側にいて欲しくて、名前を呼んで欲しくて声が聞きたくて。
冬馬しかいらない。
何度そう思ったのかわからない。
「……冬馬が居れば……何にも、いらないっ」
私が冬馬に両手を伸ばしたのと、冬馬が私を抱き寄せれるのはほぼ同時だった。
「……やっぱ……どうかしてるだろ。俺もオマエも」
冬馬は私の弱い心ごと掴むように、キツく抱きしめる。
「もう……堕ちてかまわない。冬馬と一緒なら……」
冬馬の少し高めの甘い声が、頭から降って来る。
「……堕ちよっか。いっそ二人で奥深くまで」
私が冬馬を見上げると冬馬の唇が確かめるように、ゆっくり重ねられた。
そしてそれはすぐに深くなって、もうどうしたって止められない。
それが罪深い約束の証だとしても、構わない。
冬馬の唇が触れているだけで、もうどうかなりそうな程に幸せだった。
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