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第一章 兄妹のカタチ
ーーーーあの冬の夜のことを俺は未だに思い出す。あれは大学の時だった。二人だけで観に行ったオリオン座。
明香はもう忘れてしまっただろうか。忘れてくれて構わない。俺だけが覚えていたらそれでいいから。俺だけが背負えばいい。
『馬鹿だろ』
俺がそう言うと鮮やかなブルーのマフラーを撒いた明香は俯いた。泣く前はいつも俯く。
『俺もお前も』
堕ちる必要あんのかよ?
『……私、冬馬がね』
確か俺はそこまで聞いて、明香の唇を掌で覆った。
言葉の続きは言わせない。明香に罪は背負わせない。
全部俺が持ってってやるから。
『言うな……一生』
重なりあった唇と明香から転がった一粒の雫は、雪みたいに解けて溶けて消えていく。俺たちの想いみたいに。
あの日二人で見上げた冬空には満天の星空が輝き、オリオン座だけが俺たちを見下ろしていた。
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