第三章 交錯する想い

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  「ど、うしたの?」   「春樹迎えに来るまで時間ある?」 「うん、1時間位なら」  冬馬が、机に腰掛けたのをみて、私も席を一つ開けて座った。 「朝……早かったんだね」 「まあな、目覚ましでも意外と起きれるもんだな」  「居なかったから、びっくりしたけど……」 「さっき、家決めて来たから」   「え?」   ーーーー頭が真っ白になった。 「……何で、そんな急に?急がなくても」 冬馬は、ふっと笑った。 「そんな顔させると思ったから、先に言いに来た」  「いつ、引越しするの?」 「来週には出る、最低限の物だけ送る手筈もしてきたし。残ってるのは捨ててくれて構わないから」  「……そ、うなんだ」 「春樹にも今日の夕食の時言うから、適当に合わせろよ」  見つめてる机の木目が滲む。 冬馬の顔が見れない。あの夜からずっと、冬馬のことだけ考えてしまう。 「明香」 ポタンと落ちた涙を、冬馬が指先で掬う。 「泣くな。あとお前の涙拭いてやんのも今日で最後。分かった?」 「やだ……」 あの夜で全部終わりにしようと思った。 それなのに。 「……冬馬が居ないとダメなの」 冬馬は立ち上がって、私の顎を持ち上げると、真っ直ぐに視線を合わせた。薄茶の瞳を夕陽が照らす。 「俺な……はっきり言ってあの夜から、お前と暮らすのキツいわ」 「冬馬……私」 「ごめんな、明香に余計辛い思いさせた」 「違う、私が言ったから。……私が、冬馬との約束破ったから」 「……でも欲しいって思ったのは俺のせいだから。抑えが効かなかった。……明香のせいじゃない」 冬馬は寂しさを隠すように優しい瞳で笑った。
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