秋風の狂想曲

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「ねえ、セルバンテスさん、待って。話を聞いてよ」 「いいえ、まずはわたしの話を聞いていただきます。ハイドさまをお一人にすることにお心をお痛めになられる、ユキノジョウさまのお気持ちは存じております。この街にいらっしゃり、お一人でお肩をお震わしなさっていらっしゃるハイドさまを、そのままお残しになさることが難しかった、そのお優しさ! ああ、感嘆せずにはいられない! まるで聖母のよう、ユキノジョウさまはこの街の良心であり、天使。空から落ちてきた一片の雪! その純真穢れのない清らかなる心! ああ、誰かに踏み荒らされることのないよう、お守りいたしたく存じます!」 「セルバンテスさん、悪いけど、あの、勘違いしているようだけど、おれは、その、実は男なんだけど」 「そのような男性言葉をお使いになるとは、お悲しい過去をお持ちなのでしょう。ユキノジョウさま、いえ、ユキノジョウ、私はあなたの傷を癒したい」 「まずは自分の頭を冷やそうよ!」  おれはキエロを見た。顔を赤くして、きゃーきゃー騒いでいる。キエロはユキノジョウの拒絶が耳に入らないようだ。 「ハイド。セルバンテスがぼくらを睨んでいたのは、キエロの悪い虫のように思われていたのではなく、嫉妬、だったわけですね」  セルバンテスの、ねろっとした視線。蓋を開けてみると納得する。  あの焦げ付くような熱の正体は、ユキノジョウの近くにいるおれらにむかついているだけだったのだ。幼なじみのおれよりも、同居しているハイドによりきつかったのは、そのせいってわけ。 「そのようだ」 「……いい歳して、ぼくらみたいなガキに、嫉妬、ですか」  呆れた。 「あら、男性ってものはいくつになっても子供のようなものよ」  キエロは充分満足したようだ。ドアから耳を離すと、弾んだ足取りで廊下を駆けだしていく。 「さあ、本当の意味で二人っきりにしてあげましょうよ。これがわたしたちから、セルバンテスへの誕生日プレゼントよ」  ハイドを見ると、鼻で笑うべきか眉を潜めるべきか、迷っているような顔をしていた。その様子、四文字でいうなら、ドン引き。珍しくユキノジョウを助けようともしない。 「ハイド、ユキノジョウを助けなくていいんですか?」 「ヒツジコは?」  沈黙が流れる。二人の気持ちは同じだ。こんな暴走男を敵に回したくない。 「ユキノジョウには悪いですけど……聞かなかったことにします」 「同感」  おれらは頷きあうと、キエロのあとに続いた。 「私の愛をお受け入れなさらなくてもよろしいのです。しかし、この想いだけはお受け止めいただけると嬉しく存じます!」 「待て、それって同じ意味じゃないか!」  ぎゃーすか騒いでる声がする。こんなことがあるなら、ユキノジョウもキエロに真実を告白しないわけにはいかないだろう。よい展開とはいえないが、とりあえず問題解決だ。だったらそれでいいじゃないか。そこでもしキエロと喧嘩するならば、幼なじみとして仲を修復するくらいは手伝ってやろう。  この恋愛模様。どうなるんだろうな。おれはキエロに続いて、軽快なリズムで廊下を駆けていく。おれたち三人の足音と、ユキノジョウの悲鳴とセルバンテスの熱のこもった告白。それは笑えるくらいの不協和音だった。
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