アンドロイドの右手

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「うわ――!!」  超絶なるイケボに耳元で囁かれ、思わず耳を押さえる。  っていうか、イヤホンから聞こえてくるのに耳を押さえたって意味ないじゃん! 「これ、君の声?」 「はい、そうです」 「わ――!あんまり囁かないで――!!」  さすが貴女の理想のパートナーと書いてあるだけある。  男の僕でも少しキュンときてしまった。 「と言われましても、この声は変えられないので」 「うん、分かった。無茶を言った僕が悪い」  困った声もイケボすぎる。 「では改めまして。先程は助けていただきありがとうございます。ちょうど充電中で油断していた所をパクリと咥えらえてしまい、大変困っていたので、とても助かりました」  そう言って、手首はまたペコリと器用にお辞儀をした。 「別に対した事はしてないよ。あ、喋れるんだったら元の持ち主の居所を教えてよ。返しに行ってあげる。きっと困ってるだろうし」  何より目玉が飛び出そうな程高いしね。  壊したとか言われて請求されると凄い困る。 「その事で御相談なのですが」 「何?」 「大変申し訳ないのですが、こちらでしばらくお世話になってもよいでしょうか?」 「何で?不便でしょ?」  いくら手首で器用に動き回れたとしても、身体がある方がいいに決まってる。  何より、また三毛にパクッとされたら大変じゃん。 「それなんですが、私の本体は今ごろ処分されている所だと思います」 「へ?」 「実は数日前に処分をされるという話を聞いてしまいまして。機能の30パーセントは本体に残して、残りの70パーセントは全てこの手首に移して、逃げ出してきたのです」  え、そんな事できるの?  アンドロイドが飼い主から逃げるだなんて。  さすが最新式は機能が凄いんだな。 「それは、何て言っていいのか……」 「ああ、大丈夫です。追跡機能や服従機構などは元の身体に残してあるので探される事はないと思います」  いや、そこじゃない。  そこも気になってたけど。 「なので、元の持ち主の所に帰っても処分されるだけなので、それでしたらこちらで役に立ちたいと考えているのですが。あ、こう見えて私は結構有能でして。70パーセントしか機能は残っていませんが、きっとお役に立って見せます」  そういって手首はピースサインを作った。  アンドロイド本人が押し売りするだなんて、今まで聞いた事ないけど最近はこれが普通?  僕が遅れてるの?  テンパったあげくにでた言葉は「か、母さんに聞いて良いって言われたらいいよ」だった。 「かしこまりました。ではご主人様。まずは名前をつけていただけませんか?」 「名前?前は何て呼ばれてたの?」 「思い出したくもないので、その機能も身体に残してきました」  意外と苦労してるんだな、この手首も。 「じゃあ……レイゴ」  製造番号の下2桁をとった。  あんまり愛着のある名前にしても別れた時の事を考えると困るしね。  気が変わって元の持ち主の所に帰るっていう時、すぐに捨てられるように。 「レイゴ。登録しました、マスター」 「そのマスターっていう呼び方は変えてもらってもいい?」 「何とお呼びすれば?」 「歩夢で」 「歩夢様」 「様はなしで。きっとレイゴは年上な設定でしょ?あまりかしこまらなくていいよ。ゾワゾワする」 「私に年齢はありませんが、歩夢君が望むなら善処いたします」 「うん、それで。後々もっとフランクになっていこう」 「その方が難しいのですが、望みのままに」 「じゃあ、これからよろしく」  僕が右手を差し出すと、レイゴも握り返してくれた。  意外と力が強く、頼りがいのありそうな手だった。  アンドロイドだからか体温は感じなかったが。 「ところで、充電とかはどうしたらいいかな?何か個別タイプの充電器が必要とかだったら困るんだけど」 「そうですね。まずはネットで私の基本性能について学びましょうか」  レイゴは器用にキーボードの上に乗り、踊るように操作を始めた。
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