アンドロイドの右手

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「歩夢さん、夕食ができましたよ」 「天の助け!」  あれからレイゴにみっちりとネットの前でアンドロイドの性能講座を受けさせられていた。  レイゴは基本的には柔らかい対応なのに、押しが強い。  サイトーさんと同じ感じだ、逆らえない。  僕には基本的なアンドロイドの知識が無いと、よく分からないけど宥め脅されながら、パソコンの前でレイゴの説明を聞いていた。  何で学校から帰ったのに、 また勉強させられてるんだ、僕は。 『では、今日はここまでにしましょう』  レイゴは僕の肩にピョンと飛び乗った。 「レイゴも行くの?」 『はい。ご挨拶をしませんと』 「でも、肩に乗っていたらみんな驚くかもしれないから、背中に隠れててよ」  言うとレイゴは背中にしがみついた。  リビングには母さんと姉さんがすでに待っていて、サイトーさんが出来た料理をテーブルへと急いそと運んでいる。 「遅いわよ」  姉さんが不満そうに言う。  むしろ社会人の姉さんがこの時間に居る方が……友達とか彼氏とか居ないのかな?  思わず可哀想な目で見てしまう。 「な、何よ」  ヤバイ、気付かれたかも。 「何でもなーい」 「二人とも喋ってないで早く食べましょうよ」  母さんがおっとりと告げる。  サイトーさんがしょうが焼きの乗った皿を中央にドンと置く。  超美味しそう。  あ、その前に。 「母さん、相談があるんだけど」  僕が呼び掛けただけで母さんの顔がひきつる。 「サイトー、側に来なさい」 「かしこまりました」  サイトーがさっと母さんの横に立つ。 「何でサイトーさんを呼ぶの?」 「あんたの普段の行いが悪いからよ」  姉さんは、ざまあみろ。と笑いながら「いただきます」もしてないのに先にビールをあけ飲み始めた。 「さあ、いいわ。言ってちょうだい」 「あのさ、これ拾っちゃったんだけど、家に置いておいてもいい?」  僕は背中にしがみついていたレイゴを引き剥がし、母さんの前に出した。 「ひっ、何、それ、誰の?歩夢、まさか……」 「奥様、違います」  サイトーが動揺する母さんをすかさずフォローする。 「どうしようサイトー、この子は昔から色々拾ってきたり何かに巻き込まれたり色々あるけど、人を殺す事はしない子だと思っていたのに。私、育て方間違っちゃったかな」 「奥様、落ち着いてください。そんなに揺らさないでください」 「ああー、最悪だわ」  サイトーを揺さぶってた母さんはテーブルに肘をついてシクシク泣き始めてしまった。 「奥様、よく見てください。あれはアンドロイドの一部です」  サイトーさんの冷静な言葉に母さんは顔をあげて、レイゴを見る。  レイゴは僕の手のひらの上で二本指で器用に立って、お辞儀をした。 「ひっ、動いたわ」 「奥様、こちらをお飲みください」  また動揺し始めた母さんの手にサイトーさんはグラスを無理矢理持たせると、母さんはグラスの中身をグイッと飲み干した。 「はい、もっと飲んでください」  サイトーさんは途切れなくビールをグラスに注いでいく。 「へえ、これ新しいオモチャか何か?ちょっとシュールだけど面白いわね。自由に動くの?」  レイゴは見せつけるようにテーブルの上の皿をよけながら一周回った。 「一応AIが入ってて、自分で考えて動くよ」  母さんは黙々とビールを飲み続け、何も言わない。  何も言わないから良いって事かもしれない。 「へえー、まあいいんじゃない?イタズラとかしないようにしておけば」 「大丈夫。僕より賢いから」
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