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「これがグルーミーインか……」
男は眉をひそめ、辿り着いたそのホテルをしげしげと眺めた。
のっぺりとしたクリーム色の外観は、分厚い雲に覆われた空と相まって何ともいえない気怠さを感じさせる。一泊一万円、素泊まりのみ。朝食がデフォルトで付いてくるようだが、この見た目では少々高額なように思える。本当に、このホテルで大丈夫なのだろうか。
だが、いつまでも突っ立っている訳にはいかない。鬼が出るか蛇が出るか。男は深いため息をつき、その変わった宿泊施設へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
受付は外観に反し、気品溢れるクラシックな雰囲気だった。ギャップに驚きながらも前へと進み、女性スタッフに会釈する。
差し出された用紙に個人情報を記入し、先に支払いを済ませる。おつりを待っている間、男はきょろきょろと周囲を見渡した。細部にまで手入れが行き届いている瀟洒な空間だ。スタッフの接客も丁寧で非常に好印象。もしかしたら、ここは穴場なのかもしれない。
「お部屋の鍵と朝食のチケットです。食堂は二階、大浴場は十階で明日の午前六時からご利用できますので」
「えっ、ああ……はい」
明日ということは、今日は大浴場が利用できない――予想外の情報に一瞬たじろぐ。
「今日は工事中なんですか?」
「いえ、これが当ホテルのコンセプトですので」
「なるほど……?」
何が「なるほど」なのかよく分からないものの、とりあえず相槌を打つ。まさか今日は風呂に入れないのか? 不安になって尋ねると、室内にシャワーがあると言われた。ひとまず安心する。
「それでは、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
カードキーとチケットを受け取り、丁寧に頭を下げられる。
「ええと、四階だったな」
目当ての階に到着するのを待ちながら、どんな部屋なのだろうかと想像してみる。人を落ち込ませるホテル……一体何が出てくるのだろう。危険なものでなければいいのだが。小さな緊張を抱きながら、エレベーターを出る。
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