「夜間中学」

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その1、 提案  ガラガラガラと、引き戸を開ける音がした。 出席簿を左脇に抱えたその人は、担任の先生だ。中央にある教壇まで進み、 そして机のの上に出席簿を置いた。 私達は、「起立、礼」の号令に合わせ、 「おはようございます」と挨拶をした。 先生は、 「おはよう。今日は、みんなに相談がある」と、少し前かがみになり、言葉を続けた。 「今年度は、中学校生活最後だ。クラスとして、文化祭の出し物を追加してみないかと言う提案だ」と言った。 例年、文化祭の出し物は、書道展示、絵画展示、そして男子は、技術工作の作品、女子は家庭科の作品を出展する事になっている。 その他に、クラス対抗の合掌コンクールが組まれていた。 唐突な先生の提案に、賛成や賛同の声はあがらなかった。 それは、そうだろう。中学三年の秋は、来年の高校受験を前にして、重要な時期であり、余計な事をしている暇は無いのだ。 しばらくの間、声を発する者はいなかったが、後ろの誰かが、 「先生、追加の出し物って、何よ」と、声をあげた。 それを待ってましたと言わんばかりに、 「演劇をやったらどうかと思ってる」と、言った。 「演劇!」「演劇?」と、あちらこちらがざわついた。 先生は、 「隣のクラスはやる事が決定した。せっかく体育館に集めるなら、父兄の方々、二年、一年にも見てもらい、文化祭の目玉になればと思う」とこぶしを握りしめて言った。 この時期に、また、面倒くさい事を言い出したなと、正直思った。 その後の先生の話では、3クラスの内、決定済は1つだけで、文化祭の時間配分的にも、もう一つ増やしたい様だ。 担任は、他の先生より若く、行動的だ。そのごり押しに近い熱意に負け、当クラスでも、演劇を検討する事になった。
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