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イモウト。妹。年下の家族。妹という言葉が脳に浸透してこない。妹が、いた? 俺は一人っ子じゃないのか? 俺の記憶に妹はいない。
「……は?」
親父とお袋は黙って床を見下ろした。
あまりに衝撃的で理解が追いつかず、固まっていると、「ワフっ」とムギが鳴いた。ムギは座っている俺のシャツを口でグイと引っ張る。
「何すんだよ」
動かない俺に苛立ったようにムギは強く「ワンっ」と鳴いた。
「なんだよ……」
半強制的に立たされると、フンと鼻を鳴らし、ついてこいと言わんばかりに背中を向け尻尾を振った。ムギの行動に親父たちは驚いている様子だったが、何かを悟ったような目で俺に「行こう」とだけいう。
釈然としないままムギについていくと、親父たちの寝室に行かされた。ムギはドアを身体で押して開けると、押し入れの前におすわりをした。そして、「ワン」と吠える。開けろ、ということか?
俺は恐る恐る押し入れに手をかけた。
押し入れは、押し入れにしてはやけに頑丈に見えた。そして、圧倒的な存在を放つものがある。
深い茶色の、小さな小さな箱。箱の扉は開いていて、幼い女の子の写真や線香、位牌などが添えてあった。俗にいう、仏壇。なぜ、こんなところに……? そしてこの子は?
「詩音。この子が君の妹の……天音だ」
天音。あまね。その名を聞いた瞬間、脳内で閃光がはじけた。封印されていた、過去がゆるゆると溶けていく。
「あま……ね……」
名前を呟いた途端、目の前が真っ白になった。
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