<後編>

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 そう。誰も掟を破る勇気などない。  天罰なんて受けたくないに決まっているのだ。いくら、偽物であることが充分に考えられる上、もしそれが証明できたら逆に東通りの連中に大打撃を与えられるかもしれないと分かっていても。 「天罰で死ぬのもごめんだし……実際、それで俺らの誰かが通りで死んだなんてことになってみろ。それこそ掟は本物ですってデモンストレーションするようなもんだ、奴らの思うつぼだろ。ただ噂があるだけじゃ済まないほど客足が遠のくぞ、事故物件になっちまうようなもんだからな」 「まあ、そうですよね」  理髪師の垣添が、絶望したように首を振った。 「結局、掟が本物かどうか確かめられない以上……結果は同じ。偽の噂だとしても、みんなが信じてしまえば効力が出てしまう。はあ、ただでさえ最近は、美容院に客取られっぱなしだっていうのになあ……」  それはまさに、皆の心の代弁でもあっただろう。  もしこれが本当に東通りの連中の一手だとしたら、なんともうまいやり方を考えたものである。神様の掟を遵守し、それがいつどうやって増えていくかもわからないこの町ならではの戦法だ。 ――……でも、角蔵の女将さんの言うことは尤もだわ。  皆が沈黙する中、文子はずっと考えていた。この通りに、“気を付けていないとうっかり破ってしまいそうになる”掟をできることは、あまりにも東通りの連中にとって都合が良すぎる。これを偶然と片づけるのは無理があるだろう。偽物である可能性は充分すぎるほど、ある。 ――なんとか、確かめる方法は……。  このままでは自分達の店も、友人達の店もみんなお客が来なくなってしまう。自分達はこれでご飯を食べているのだ、店が潰れてしまったら文字通り路頭に迷ってしまうことになるではないか。 ――そうだわ。  そして、文子の頭に名案が浮かんだのだった。  まさに、悪魔のような名案が。
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