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1.
──ザァー……
雨音が鳴り響く夜、狼の耳を持つ一人の少年は崖の上に立っていた。
その目には光がなく、ただ下に広がる暗い森を映していた。
ゆっくりと一歩、足を前に踏み出した時、微かに泣き声が聞こえた。
昔の自分を思い出させる様な幼い泣き声に思わず足を引っ込めた。
辺りを見渡し、声のした方に進んだ。
段々と声が大きくなる。
すると、大きな木の幹の傍で体を小さくし震えている"何か"が見えた。
"何か"に近づくとそれは小さな悲鳴を上げて更に震えだした。
「……大丈夫。怖くないよ」
またしても自分の姿と重なった少年は優しく声をかけた。
怯えながらも顔を上げ、目を此方に向けた"何か"には
小さな長い耳が生えていた。
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