お祭りに行こう

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屋台が立ち並ぶ通りには大勢の人が溢れていて、辺り一面美味しそうな匂いに包まれている。 焼きそば、たこ焼き、クレープ、かき氷、フランクフルト、じゃがバター、ベビーカステラ、リンゴ飴……どれを食べようか迷ってしまう。 そんな雪哉の横では和樹と橘が射的の出店の前で何やら盛り上がっているようだが……何を話してるのだろうか? そんなことを考えていた時、突然背後から誰かに肩を軽く叩かれた。驚いて振り向くとそこには浴衣姿の明峰女子生徒が2人立っていた。 名前は憶えていないが確か同じ学年の子だったような気がする。 「やっぱり、萩原君だ。ねぇ、一人なの?」 「良かったら私らとまわらない?」 「え、いや……」 グイッと腕を引かれ柔らかい感触が身体に当たる。 胸を腕に押し付けられているのは認識できたが、どうしたらいいのかわからず固まっていると、近くに居た橘が間に割って入ってきた。 「悪いな。今日はコイツ俺とデートなんだよ」 言いながら抱きしめるように肩を引き寄せられ身体が密着する。 目の前に居た女の子達の口から、きゃぁっと小さな悲鳴にも似た黄色い声が上がる。 「え、ちょ……ッ」 まさに寝耳に水な発言に驚きの声を上げると、橘はニヤリと笑ってするりと耳元に唇を寄せて来た。 「いいから話を合わせろよ」 自分にしか聞こえない声で橘が囁く。確かに今更否定するのもおかしいし、ここは素直に言うことを聞いておいた方がいいかもしれない。 それにしても、なんて嘘をつくんだ。 雪哉自身背は高い方だし、橘に至っては190オーバーの長身である。こんなデカイ男二人がカップルに見えるはずないだろう。 だが、そんな雪哉の心配とは裏腹に二人はあっさりと納得してくれたようで、顔を赤らめながら「頑張ってね!」などと訳の分からない言葉を残しそそくさとその場を離れていった。 というか、頑張れってなにを? 何か大きな誤解をされた気がしてならないが、とりあえず助かったのは事実だ。 「あの、先輩ありがとうございます。僕、ああいうの苦手で……」 ホッと安堵の溜息を吐きつつ礼を言うと、何故かじっと見つめ返されて戸惑ってしまう。 その視線が妙に熱を帯びているように感じて落ち着かない。 「お前さ、顔はいいのに中身は初心かよウケる」 「ほっといてください!」 初心というより、女性をどう扱っていいのかわからないだけだ。 特にさっきのようにグイグイ来られると困ってしまう。 「難攻不落の雪哉君が、男とデートしてたって、夏休み明けたら噂になってるかもな」 「それな、ウケるし」 いつの間にか隣に来ていた和樹が橘の言葉に同意して意地の悪い笑顔を浮かべて笑う。 「何それ、全然笑えないよ」  雪哉はげんなりとした表情で呟いた。 「まぁ、いいんじゃね? 適当に言わせとけば。ほら、行こうぜ。大久保たちが待ってる」  橘に促され歩き出したものの、なんだか複雑な気分で雪哉はひっそりと嘆息した。
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