表具屋の健ちゃんは僕と史郎が好き

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表具屋の健ちゃんは僕と史郎が好き

Twitterの「地獄の性癖お題スロット」で出てきた題 「家族の目の前で おっとり攻めと おじさん受けが ネコを可愛がる話」 です。 「おいおい、変えたばかりなんだからちょっとは遠慮しろよ」 まっさらな障子に向かう僕を横からひっつかんできたのは、いつものヒゲの「健ちゃん」だった。 「ほら、史郎んとこへ帰んな」 くるりと向きをかえられて、すぐ横にいたご主人さまの胡坐座の真ん中にポンと置かれた。 抗議の声を上げると、ご主人様がたしなめるように僕の背中を撫でてくれる。仕方がない、くるりと丸まってしっぽを枕にする。薄目で様子をうかがいながら次のチャンスを待つことにした。 間もなく遠くからバタバタと足音がした。と思うと、開けっ放しになっていた襖の後ろから化粧っ気のない顔がのぞいた。 「健ちゃん、いつもありがとね。まぁー障子も襖もさっぱり!これでちゃんとお盆が迎えられるわ。バニラ、今回も激しく破いてたでしょ?」 華やかな声を上げながら、お茶とお菓子を盆にのせた「みちこ」が入ってきた。ご主人様にお盆を渡すと座布団を引っ張って二人の近くに置いた。 「姉さん、見て、この障子透かし模様が入ってるんだよ」 お盆を受け取ったご主人様が、水ようかんと熱々の緑茶を「どうぞ」と健ちゃんの前に置いた。知ってる、こいつは甘いものに目がないんだ。嬉しそうに小皿を手に取るのをみてゆっくりと立ち上がる。いやがらせのいいチャンスだ。ご主人様の膝から降りて、すぐそばにある脚をちょいとつつくと、「お?バニラどうした、こっちにくるのか」なんて言いながら乗せてくれるからちょろいもんだ。わざと時間をかけて膝の上でぐるぐる回り、体を伸ばしてくつろいでやる。なかなか寝心地がいいのが悔しい。 新しい障子越しに、光が動いていた。もうすぐ夏が来るっていう、あのいつものきらきらだ。うっとりと見ていると上から声がした。 「まーた狙ってる。でも残念でした、今回も下の方はプラスチック障子だよ。和室でバニラ一匹にしない限り大丈夫なはずなんだけどな。な、おいバニラ」 ふふん、お前が帰ったら早速枠に登って紙の部分に爪を立てやる。爪が引っかかるあの感触を思い出すと楽しくって背中がむずむずする。 水ようかんを食べ、湯気の立つお茶を飲み終えた健ちゃんは、いつものように僕のおでこを撫ではじめた。こいつの手はいつも熱い。それでもって、ご主人様が近くにいるとさらに熱くなる気がする。猫に近いその体温が心地よくって、もっと、と頭をこすりつけてしまう。 「バニラは健二さんが大好きだよね」 「あら、健ちゃんもバニラのこと好きだから相思相愛ね。障子を破く猫と、それを直す表具屋。いい組み合わせじゃない?」 「そうだね、いい組み合わせだ」そう言いながらも主人様はちょっと困った顔をしている。身を乗り出し、健ちゃんと一緒に僕を撫で始めた。 顎の下、耳の後ろ。それから、胡坐を組んでる健ちゃんの脚にまあるくよりかかってる背中。くすぐったくって背中がぴくぴくしてしまう。二人の手は時々重なり合いながら、僕の気持ちいいところをちょうどいい強さで撫でてくれる。 「バニラはいつでも好きな時に好きな人の上に乗れていいね」 ご主人様の言葉に薄目を開けて見上げると、真っ赤になった健ちゃんに向かってご主人様が微笑んでいた。 <完>
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