予期せぬ出来事

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予期せぬ出来事

  ホテルのフロントで名前を聞いたが、プライベートなことはお答えできないと断られて名前を知ることもできなかった。  会社の車に乗って一度アパートまで戻ってから会社に向かった。  アキとはそれきり会うことは無かった。あの甘い時間に身体が熱くなるなんて。あんな出会ってすぐに関係を持つことなんて自分に起きるとは思ってもみなかった。  そうする事が自然で、誘われるがまま流されて、惹かれてしまった。αだからと思っても、発情期じゃなかったからフェロモンで誘ったわけでもない。アキにリードされていた。思い出すと熱いため息が溢れる。  αの一時の遊びだったのだろう。  連絡先も名前も知らない。惹かれてやまない。  肌寒かった春が終わって、そろそろ暑さが身体に堪える時期が来て、今回は発情期が遅いなと気が付いて手帳を開いた。 発情期が遅れているせいかなんだか身体の調子が悪い。夏バテにはまだ早いが、食欲も落ちている。 抑制剤のおかげで仕事を休むほど酷い発情期ではないけど、2週間のうちの初日の数日はどうしても休んでしまうから仕事も進めておかなければならい。 発情期なんて面倒だと思いながら、胃もたれする腹をさすった。  発情期前から訪れているΩ外来。  決まった担当医はいないけど、何度か顔を合わせている医者に体調不良を伝えると、「夏バテにしては早いと思いますけど」と言われて、「食べ過ぎってことも無いんですよ」と食欲が落ちていることを伝えた。 「念の為ですけど、血液検査してみましょう」  待合室で待たされて、改めて診察室に呼ばれた。 「いくつか質問があるんですが」  医者は申し訳ないように僕に向き合った。 「ええ、なんですか?」 「葉山さんは、特定の番はいなかったですよね?」  発情期の抑制剤をもらいに来ているし、問診票にもそれは記入してある。 「はい」 「その、特定の番はいないにしても……行為自体はされましたか?」  これまでも彼女くらいはいた。経験は豊富ではないが、年相応だとは思っている。 「最近は無いですけど」  今は彼女はいない。一人暮らしをしながら大学を卒業して社会人になってからはそれどころではなかった。
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