キスとは好きな人とするものです

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「資料、助かった。 サンキュ」 机に左手をつけて黒縁眼鏡の奥から私を見下ろし、小野瀬(おのせ)さんが眩しいばかりに真っ白な歯をのぞかせてにかっと笑う。 「はぁ。 仕事ですから、別に」 お洒落眼鏡の彼とは反対に、いまどき分厚いレンズで、見るためだけに特化した黒縁眼鏡のブリッジを人差し指の先で上げて答えた。 「鶴岡(つるおか)さんって、真面目だよね」 なにがおかしいのか、軽く握った拳を口もとに当て、彼はくすくす笑っている。 彼のそれが、褒め言葉なのか嫌味なのかは判断しかねた。 私の場合、嫌味で使われる場合が多いが、彼の調子からはそうではない気もする。 「そうですか。 用が済んだんなら、私は」 もう話すこともないし、さっさと彼から目の前の画面へと視線を戻そうとした、が。 「あっ、ちょっと待って」 止められて、改めて小野瀬さんを見上げる。 彼は胸ポケットから名刺大のカードを取り出し、わざわざ私の手を取ってその上にのせた。 「これ、資料のお礼。 じゃ」 ひらひらと手を振りながら去っていく彼の背中を少しのあいだ見つめ、手もとのカードに視線を落とす。 「……名刺?」
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