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ぶんちゃんとしんちゃん
しんちゃんが幼稚園から帰ってきたらママが泣いていました。
「ママ、どうしたの?」
「しんちゃんおかえり。あのね、ぶんちゃんがね……」
ママの手の中で文鳥のぶんちゃんが寝ていました。
「ぶんちゃんねてるの?」
ママはどう言えばいいのか考えましたが、
「あのね、ぶんちゃんは死んでしまったの」
悲しそうにそう言いました。
「しんでしまったってなに?」
ママは少しだけ考えていましたが、
「ぶんちゃんはずっと寝てることになったの」
「へえ」
そう言ったけど、しんちゃんにはよく分かりません。
「ずっとねてるの?」
「そう」
ぶんちゃんはしんちゃんが生まれる前からママの家族でした。
まだママが高校生だった時、道の上に落ちてぴいぴい鳴いてた鳥のヒナを見つけたのです。
文鳥は自然にいる鳥ではないから、どこかに飼い主さんがいるだろうと色んな人に聞いてまわったけど飼い主さんは見つからなくて、ママの家族になったのです。
ママが結婚する時もぶんちゃんはママと一緒にパパのところに来て、しんちゃんが生まれてからはずっとしんちゃんのお兄ちゃんでした。
「しんちゃんも入れてあげてね」
ママはぶんちゃんを白いハンカチに包んで紙の箱に寝かせると、ぶんちゃんが好きだったご飯やおやつ、それから庭で摘んできたお花をしんちゃんに渡してくれました。
しんちゃんはぶんちゃんの口のところにご飯とおやつを、それから頭のところにお花を入れてあげました。
「こう?」
「うん、ぶんちゃんも喜んでると思うよ」
ママはそう言うと、しんちゃんを連れて、ぶんちゃんの入った箱を持って庭に降りました。
「え! ママ、なにするの!」
しんちゃんはママがぶんちゃんの箱を土を掘った穴の中に入れようとしてるのを見てびっくりしました。
「ぶんちゃんがかわいそうだー!」
しんちゃんはそう言ってわんわんと泣きました。
ママは困ってしまいました。
「あのねしんちゃん。ぶんちゃんはこれからここで寝るの」
「ここで?」
「うん、だから、ぶんちゃんがゆっくり寝られるように土をかけてあげないといけないの」
しんちゃんはそう聞くと泣くのをやめて、ママと一緒にぶんちゃんの箱に土をかけ、また上にもお花を置きました。
その日から毎日毎日、しんちゃんはお花を置いた場所を見にいきました。
そうして何日か経ったある日、しんちゃんはママに聞きました。
「ママ」
「なあに?」
「いつぶんちゃんのおはなさくの?」
「え?」
「ぶんちゃんは、おはながさいたらそこからでてくるんでしょ?」
「え……」
しんちゃんの幼稚園にはきれいなお花が咲いています。
春にはチューリップ、そして今の時期にはユリがぱかっとお花を開きます。
「ぶんちゃんはあのなかからでてくるんだよね」
しんちゃんはそう思ってぶんちゃんの場所からお花が伸びてくるのを待ちましたが、全然そんな気配はありません。
「あのね、しんちゃん」
ママは言いにくそうに言いました。
「もうぶんちゃんは戻ってこられないの、これからずっとあそこで寝るだけなの」
「えっ!」
しんちゃんはてっきりぶんちゃんがお花になるために土をかけるんだとばっかり思っていたので、すごく驚いてしまいました。
「いやだ、そんなの!」
しんちゃんは走って家を飛び出していきました。
ママは急いで追いかけましたが、どっちの方向に向かったのかしんちゃんの姿を見失い、慌ててあちらこちらを探しました。
しんちゃんは神社まで走ってきていました。
「ぶんちゃん……」
神社の石の椅子の上でそう言って泣いていたら、
「しんちゃん、何を泣いているの?」
誰かが話しかけてきました。
「だあれ?」
しんちゃんが足元を見ると、一羽の鳩がくるっくーとしんちゃんを見上げています。
「きみ?」
「そう、僕」
「はと?」
「うん、僕、ぶんちゃんの友達だよ」
「え! ぶんちゃんどこ?」
「ほら、上を見てごらん」
鳩に言われてしんちゃんが上を見上げると、たくさんの鳥たちが空いっぱいに広がってぐるぐると飛び回っていました。
「あの鳥はみんなぶんちゃんなんだよ」
「え!」
しんちゃんがびっくりしていると鳩が続けて言いました。
「どの子もみんなしんちゃんが大好きなぶんちゃんだよ。だから、もしも誰かがしんちゃんのところにきたら、ぶんちゃんだと思ってかわいがってあげてね」
くるっくーともう一度鳩がそう言ったので、
「うん、わかった、ぼく、だれがきてもだいじにするよ」
しんちゃんはそう約束をしました。
「約束だよ」
鳩はそう言うと自分も飛び立ってぐるぐると回る鳥の輪の中に入りました。
しんちゃんはそれで今の鳩はぶんちゃんだったんだと分かりました。
「しんちゃん、しんちゃん!」
「あ、ママ」
しんちゃんは石の椅子の上で寝てしまってました。
「あのねママ、ぼくぶんちゃんにあったんだよ」
「え?」
「ぶんちゃんがはとになっててね、それで、どのとりもみんなぶんちゃんだよ、だからどのこがきてもかわいがってあげてねって」
ママはしんちゃんの言ってることはよく分かりませんでしたが、
「そうね、うちに来る子がいたら大事にしてあげようね」
そう言ってしんちゃんの手を握って一緒に家に帰りました。
きっとまたいつかぶんちゃんに会えるはず、そう思いながら。
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